"妻を殴った外交官と2億円の空売り" 第4話
彼女はスマートフォンを操作し、直と共していた位置報を解除した。
族カードの利用も止し、ハサミを入れて破棄する準備をした。
夫婦の共座から、自分の婚資産だけを個の別座へ全額移した。
最に、直とのトーク画面をいた。
『どこにいる?』
『勝なことをするな』
『の夜までに戻れ』
件のメッセージが届いていた。
謝罪の言葉は、つもなかった。
美咲は既読をつけず、そのまま通を完全にオフにした。
ベッドへ横たわると、張り詰めていた緊張が解けたのか、全がガタガタと震え始めた。
いだから、今まで泣かなかったのではない。
泣いてしまえば、あのに戻りたくなる気がして、必に耐えていただけだったのだ。
美咲は枕に顔をく押し付け、声を殺して泣き続けた。
数分、チャイムが鳴り、亜美が部へやって来た。
亜美は美咲の腫れた頬を見るなり、自分の目を赤くした。
しかし、直を罵るよりも先に、美咲へ温かいタオルとの入ったグラスを渡した。
「今夜、何を決めてもいい」
亜美は美咲の背を優しくさすった。
「何も決めなくてもいい。ただ、あのへは戻らないで」
美咲は静かに頷いた。
「戻らない」
美咲はののグラスを見つめた。
「今度だけは、自分の言葉を裏切りたくない」
その夜、美咲はほとんど眠ることができなかった。
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けれど、夜け、カーテンの隙からいが部に差し込んだ、胸の奥にさな確信がまれていた。
これから失うものは、確かにある。
それでも、失った先にしか取り戻せないものもあるのだ。
直は、妻が必ず帰ってくるとっていた。
翌の夕方、直は座の百貨で買ったオレンジの袋を提げて帰宅した。
玄関はいつも通り静かだった。
昨夜の陶器の破片はすでに片付けられ、はどこも綺麗に拭きげられている。
いつものと、何も変わらないように見えた。
直は靴を脱ぎ、オレンジの袋を棚のに置いた。
「美咲」
直は声をかけた。
返事はなかった。
キッチンの方から、トントンという包丁の音が聞こえてきた。
覗き込むと、エプロン姿の彩佳がっていた。
彩佳は振り返り、微笑んだ。
「お帰りなさい」
直は眉を寄せた。
「美咲は?」
彩佳は包丁を置き、首を傾げた。
「朝から見ていません。買い物じゃないですか?」
直はスーツのポケットからスマートフォンを取りし、美咲へ話をかけた。
コール音が回鳴っても、誰もない。
もう度かけ直したが、結果は全く同じだった。
彩佳がキッチンから顔をした。
「先輩、ご飯もうすぐできますよ」
彩佳の声は、ひどく優しかった。
何かを求するわけでもなく、ただそこにいて、疲れた男を包み込むような声だった。
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美咲は違う。
最の美咲は、直が帰宅するたびに、線の奥に静かな質問を隠していた。
どこにいたのか、誰と会っていたのか、なぜ連絡を返さなかったのか。
直は、その息苦しい沈黙が嫌だった。
直は階段をがり、階の寝へ入った。
部の空気が、妙に軽くじられた。
ベッドは綺麗にえられている。
サイドテーブルにあったはずの専がなくなっていた。
直はクローゼットの扉をけた。
美咲のの半分以が、見事に消えっていた。
化粧台を確認すると、基礎化粧品がすべてなくなっている。
使いかけのだけが、数本無造作に残されていた。
直は焦りをじながら、再びスマートフォンで話をかけた。
『おかけになった話は、波の届かない所にあるか、源が入っていないため……』
今度は、源そのものが切られていた。
直の胸の奥に、鈍い違がまれた。
美咲はこれまでも、喧嘩のに実やホテルへったことがある。
しかし、そのは必ずいメッセージを残していた。
『、をやします』
『母のところにいます』
今回のように、何も言わずまで持って完全に消えたことは、度もない。
直は美咲の母親へ話をかけようとして、指を止めた。
老いた両親を、無用に配させる必はない。
どうせ美咲は、友のにでも転がり込んでいるのだろう。
数待てば、活費や族の事を考えて、自ら戻ってくるはずだ。