"妻を殴った外交官と2億円の空売り" 第13話
「私は族じゃないってこと?」
直はを抱えた。
「今はそういう話をしていない」
彩佳の目に、嘘くさい涙が浮かんだ。
「美咲さんがいなくなってから、ずっと支えたのは私です」
彩佳は直の腕を掴んだ。
「ご飯を作って、話を聞いて、子さんの相もして……なのに」
彩佳は直を睨んだ。
「美咲さんが成功したと分かった途端、私を追いすんですか?」
直はひどく疲れた目で彼女を見た。
あの夜、美咲を殴った、自分が守りたいとった女性。
今目のにいる彩佳は、以ほど儚くは見えなかった。
直はい声で尋ねた。
「おはなぜ、帰国してすぐ俺のへ来た?」
彩佳は線を泳がせた。
「くところがなかったから」
直はで笑った。
「勤務を終えた務省関係者が、宿泊先も決めずに帰国するのか?」
彩佳の顔が張った。
直は初めて、彼女のの細部を疑った。
彼女は昔、直に好を告げ、断られたことがある。
その、別の男性と結婚しへた。
今回の帰国理由は、婚してになったからだと聞いていた。
しかし、省内で確認すると、婚はまだ成していなかった。
夫とは別居だが、活費も居もしっかり確保されている。
直は彩佳を見据えた。
「最初から、美咲を追いすつもりだったのか」
彩佳は歩がった。
「そんな言い方しないで。
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先輩だって、美咲さんに疲れていたでしょう?」
直は声を荒らげた。
「質問に答えろ」
彩佳は数秒黙り、やがて悪びれずに肩をすくめた。
「私がし背を押しただけです」
彩佳はたい笑みを浮かべた。
「夫婦が本当にうまくいっていたなら、私が何をしても壊れないはずでしょう?」
その言葉は、直自が美咲へ何度も投げつけた理屈と全く同じだった。
『おが騒がなければ殴らなかった』
『おが疑わなければ喧嘩にならなかった』
壊した側が、傷ついた側へ責任を返すための自己な言葉。
直は目を閉じた。
「てけ」
彩佳はをこうとした。
「先輩……」
直は叫んだ。
「今夜にだ!」
彩佳は泣き真似をしながら、慌てて荷物をまとめた。
だが、彼女がてっても、美咲は度と戻らない。
空っぽになった寝で、直はベッドの端に座り込んだ。
以、美咲は眠るに必ずさなかりをつけ、専を読んでいた。
直は『目が悪くなる』と言って、かりを消させた。
彼女はそれ以、客へ移して読むようになった。
直は今になって、のに美咲の居所をしずつなくしていったのが、自分だったと気づいた。
会社の融資は止まり、父からは鳴られ、省内では調査がんでいる。
それでも彼が最も恐れていたのは、処分でも破産でもなかった。
美咲が、自分のいない所で、何の自由もなくききと暮らしていることだった。
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調査の報がる、子は美咲の母へ直接話をかけた。
子は圧な態度を崩さなかった。
「美咲さんを説得してください」
子は苛ちをぶつけた。
「夫婦の問題をへ持ちすなんて、あまりにも非常識です」
美咲の母は、以なら恐縮して謝っていただろう。
が佐伯に助けられたと信じていたからだ。
しかし今回は、静かに、そしてきっぱりと答えた。
「娘が何を提したか、私はりません」
母の声は落ち着いていた。
「ただ、直さんが娘を殴ったことは聞きました」
子は反論した。
「それは美咲さんにも原因があって……」
母は子の言葉を遮った。
「原因があれば、妻を殴っていいのですか?」
子は言葉を詰まらせた。
母は静かに続けた。
「佐伯さん、娘は、あなた方に失礼がないよう必に努力しました」
母の声にしみが混じった。
「私たち親も、を助けてもらった負い目から、するよう言ってしまった」
母は最にはっきりと告げた。
「もう度と、娘に戻れとは言いません」
話は方に切られた。
子はしばらく受話器を持ったまま、呆然とっていた。
は自分たちに絶対に逆らえない。
そう固く信じていた台が、音をてて崩れった。
直の職にも、庭内の来事が正式に伝わった。
美咲は警察へ被害届をしていなかったが、族相談窓に詳細な記録を残していたため、監察担当は暴力為についても聴取をった。