"妻を殴った外交官と2億円の空売り" 第16話
美咲は直の目を見た。
「だからこそ、もう戻れない。していたに、自分の尊厳まで差ししてはいけなかった」
美咲は静かに宣言した。
「私はやっと、それを理解したの」
美咲はちがった。
「分、終わったわ」
直は慌ててちがった。
「待ってくれ。次の会議がある。もう度だけ、考えてくれないか」
美咲はち止まり、直を見た。
「あなたが欲しいのは、私ではない。自分を許してくれる妻よ」
美咲はきっぱりと言い切った。
「私はもう、その役をしない」
彼女はをた。
ガラス越しに、美咲の背がワシントンのの流れへ溶けていく。
直は、追うことができなかった。
テーブルのには婚協議が残されている。
署名欄には、旧姓である『』の名が、迷いのない美しい字でかれていた。
カフェをた美咲は、IMFの建物へ戻るに、度だけを止めた。
が刻みに震えていた。
直のでは、完璧に平静を保てた。
声も乱れず、言いたいことをすべて言えた。
それでも、したに『戻らない』と告げることが、何もじない為になるわけではない。
彼女はくの公園のベンチへ座り、く、く息を吸った。
スマートフォンを取りし、亜美へいメッセージを送る。
『会った。婚類を渡した』
すぐに話が鳴った。
美咲は話にた。
「丈夫?」
亜美の配そうな声が聞こえた。
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美咲はしだけ笑った。
「丈夫じゃない。でも、戻らない。それで分」
美咲は目を閉じた。
直が謝った、のどこかが反応した。
もっとく、その言葉を聞きたかった。
平打ちの翌朝ではなく、最初に彩佳のを見つけた。
義母に侮辱された正。
研究へ戻りたいと話したあの夜。
そのどこかで、直が度でも美咲の側にっていたなら、未来は違ったかもしれない。
しかし、しなかった未来をし続けても、現実は変わらない。
午の会議で、美咲は融危に陥った国の資本流モデルをスクリーンで説した。
発表、度も声は震えなかった。
質疑応答では、反対見を持つベテランの研究者と分激しく議論し、最には互いの提条件を見事に理した。
会議、司が美咲に声をかけた。
「今の分析は非常に確だった。個に難しいだったと聞いたが、よく集したね」
美咲は驚いて司を見た。
「どうしてそれを?」
司は微笑んだ。
「友の藤原さんから、緊急は退させてほしいと連絡があった。ただし、あなたには言わないでくれと」
美咲はわず笑い声をげた。
誰かに守られることは、選択を奪われることではない。
必なに逃げを用し、それを使うかどうかは本に任せる。
直の『守る』は、いつも美咲をさくする形だった。
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友たちの『守る』は、美咲が自分でつための余を作ってくれた。
その違いをれたことは、失敗した結婚ので得た、数ない切な学びだった。
夜、美咲は婚協議の控えを、仕事机の引きしの奥へしまった。
過を消すためではない。
もう、毎見なくてもいい所へ置くためだった。
直が本へ戻ると、務省の調査はすでに次の段階へとんでいた。
省内の監察だけではなく、融庁と証券取引等監委員会が、佐伯の関連ファンドへ斉に資料提を求めていた。
精の株価落にわれた規模な空売り。
欧州企業との交渉報が漏れた経。
直が族のファンドへ送ったメールの履歴。
どの事実も、単独では決定な証拠にはならない。
しかし、系列を並べると、つの確な図が浮かびがった。
直は事聴取で、何度も同じ質問を受けた。
調査官が厳しい顔で聞いた。
「なぜ担当業務でった企業報を、母親が管理するファミリーオフィスへ送ったのですか?」
直は弁解した。
「般な報として共しました」
調査官はメールの文面を読みげた。
「メールには『提携は成しない能性がい。今が仕掛けだ』とあります」
直はうつむいた。
「表現が適切でした」
調査官は証拠を突きつけた。
「その、関係ファンドが取引を始し、莫な利益を得ています」
「偶然です」
調査官は酷に事実を並べた。