"妻を殴った外交官と2億円の空売り" 第20話
美咲は穏やかな声で続けた。
「でも、あなたが責任を認めたことは分かった」
美咲は直の目を見た。
「許すことと、憎み続けないことは別よ」
美咲は微笑んだ。
「私はもう、あなたを憎むためにを使わない」
その言葉に、直はく目を伏せた。
もう度何かを言いかけて、彼はを閉じた。
以なら、美咲に選択を迫っただろう。
今は、自分にその権利がないと完全に理解しているようだった。
「幸せでいてほしい」
直は、それだけ言った。
美咲は軽くをげ、会議へ向かって歩きした。
背から呼び止める声はなかった。
振り返らなくても、もう平気だった。
会議では、世界各国の融当局者が集まり、美咲の分析へ次々と質問を投げた。
彼女はつずつ、確に答えた。
誰かの妻としてではない。
美咲として。
それが、彼女が自らので取り戻しただった。
京の国際会議の、若い女性研究者が美咲へ声をかけてきた。
「先」
若い研究者はし緊張していた。
「私、結婚をに仕事を辞めるか迷っています」
研究者は美咲の顔を見た。
「相は赴任がくて、続けるのは難しいと言われていて」
美咲はすぐには答えなかった。
自分の経験を般化し、結婚そのものを否定するような言い方はしたくなかった。
美咲は優しく微笑んだ。
「辞めること自体が、違いではありません」
広告
美咲は彼女の目を見た。
「自分で選び、また戻りたいに戻れる準備があるなら」
美咲はし真剣な顔になった。
「切なのは、相があなたの能性を尊しているかどうかです」
研究者は首を傾げた。
「尊、ですか?」
美咲は頷いた。
「あなたが続けたいと言った、緒に方法を考えるか」
美咲は呼吸置いた。
「最初から無理だと決めるか」
美咲は優しく言った。
「そこは、よく見た方がいいといます」
若い研究者はく頷いた。
美咲はその背を見送りながら、の自分に同じ言葉を届けたいとった。
当の自分は、直にされるために、彼が望む『妻』へづこうと必だった。
語学力を隠し、専識を控え、会では歩ろを歩いた。
けれど、相がするために自分をさくし続ける関係では、どれだけ努力しても決して対等にはなれないのだ。
会議の最終、美咲は基調講演を担当した。
演題は『経済依と決定の自由』。
企業融の話から始め、最に計や個の選択へと触れた。
「資へのアクセスを失うことは、単に購買力を失うことではありません」
美咲は客席全体を見渡した。
「拒否する力、れる力、やり直す力を失うことです」
美咲は力く語った。
「制度は、いにいるが、再び選択肢を取り戻せるよう設計されなければなりません」
広告
会から、きな拍が起きた。
客席の方に、直がいることには、講演が終わってから気づいた。
彼は声をかけることはなく、ただって拍をしていた。
美咲は目をわせず、静かにをげた。
それで分だった。
過を否定する必はない。
ただ、もう過のに評価してもらう必もなかった。
会議の翌、子がホテルへ美咲を訪ねてきた。
以の彼女なら、約束もなく嫁の宿泊先へ現れ、当然のように部へがろうとしただろう。
今回は違った。
ロビーの子に座り、受付を通して正式に面会を申し込んでいた。
美咲は迷った末、分だけ会うことにした。
子はひどく老けて見えた。
価な着物ではなく、なスーツを着て、膝ので両をねている。
子はくをげた。
「美咲さん、謝りたくて来ました」
美咲は無表で聞いた。
「何についてですか?」
子は顔をげた。
「全部です」
子は声を震わせた。
「あなたの仕事を軽く見たこと」
子は指をく握りしめた。
「の事を利用して、佐伯に逆らえないとっていたこと」
子は美咲の目を見た。
「直がをげたのに、あなたを責めたこと」
美咲は黙って聞いた。
子は唇を震わせた。
「直をもう度支えてくれとは言いません」
子の目から涙がこぼれた。
「ただ、あの子がでいるとうと……」
美咲は静かに、しかしきっぱりと子の言葉を遮った。
「お義母さん」
子はをつぐんだ。