"解雇された職人が未明に餡を練る" 第14話
だが、その劇の結末は、あまりにも惨だった。 息子は解放されるどころか、自分の無力さと罪悪の炎に焼かれ、も体もボロボロになってしまった。
こんな終わり方があっていいはずがない。 続いたが、誰の悪でもなく、お互いをいやるあまりに破滅していくなんて、そんな条理を絶対に認めたくなかった。
川沿いの坂を駆けがり、あのアパートのに自転を投げ捨てた。
階段を駆けがり、角部のチャイムを連打する。 ピンポン、ピンポン、ピンポンと、暴力な属音が響く。
「藤子さん! けてください! 藤子さん!!」
返事はない。 私はドアを激しく叩いた。鉄の扉がガタガタと鳴り、所の部から審そうにカーテンをける気配がした。
「けて! 健太さんが、昨夜傷したんです! 厨でをして、腕に傷を負ったんです!」
ガチャリ、と内側から鍵のく音がした。
勢いよくいたドアの隙から現れた藤子さんの顔は、のように血の気が引いていた。 昨夜と同じフリースを着たまま、元は靴すら履いていなかった。
「……健太くんが……傷……?」
「救急で運ばれました。皮膚が爛れて、もう包帯だらけです。今も階で、痛みに震えながら寝てます」
藤子さんの喉から、ヒッとい鳴が漏れた。 彼女のがガクガクと震え、ドアの枠に縋り付くようにして体を支えた。
広告
「嘘……嘘でしょう……あの子、の番は慎な子だったのに……」
「慎なわけないでしょう! たったで、あの鍋を扱えるわけがない! 藤子さんだってってたはずです! 鍵を取りげられて、来られなくなったからって……どうして見殺しにしたんですか!」
私は抱えていたノートを、藤子さんの胸元に突きつけた。 表には、び散った餡の茶い染みと、健太さんの血の跡がついていた。
「これ、健太さんが肌さず持ってたノートです。藤子さんのち位置、べらの角度、をめるタイミング……全部、寝るを惜しんでき留めてあったんですよ! あの子はね、逃げしたかったんじゃない! あなたたちに認めてもらいたくて、必でしがみついてたんですよ!」
藤子さんは、震えるでそのノートを受け取った。 ページをめくる指先が、激しく波打っている。
几帳面な、し角張った健太さんの文字。 『藤子さんはここでを歩引く』 『豆のりが甘さからばしさに変わる瞬を見逃さないこと』 『母さんが帳から見てる。背筋を伸ばす』
ページの端々は、汗と涙で何度も濡れて乾いた跡があった。
「あの子は……あの子はね、藤子さん」
私の声が震え、混じりの涙が界を滲ませた。
「豆の匂いが嫌いだって言いました。菓子なんて見たくもなかったって。
広告
……でもね、それ以に、母さんをにしたくなかったんです。藤子さんに迷惑をかけたくなかったんです! それを……して結託して、あんな酷い追いし方をして……あの子をきりの厨に放り込んで……! これが、あなたたちのやりたかったことなんですか!?」
藤子さんはノートを胸に抱きしめ、そのに崩れ落ちた。 玄関のタタキに膝をつき、絞りすような嗚咽を漏らした。
「ごめんね……ごめんね、健太くん……」
濡れたコンクリートのたさも構わず、藤子さんは額をに擦り付けた。
「私が……私が甘かったのよ。奥様に言われた、あの子の将来のためだって、自分に言い聞かせて……。でも本当は、私自が怖かったのよ。あの子がを継いで、私が老いぼれて使い物にならなくなった、邪魔者扱いされるのが怖かった……。あの子のを壊すのが怖かった……!」
「藤子さん」
私はしゃがみ込み、藤子さんのえ切った肩をく掴んだ。
「まだ終わってません。が、周の特売の当です。予約の半分は断りました。でも、まだ箱分の客が来ます。所のたちも、くから来てくれる昔からの常連さんも、みんな柳堂の節目を祝いに来るんです」
藤子さんが、涙で濡れた顔をげた。
「このままを潰したら、健太さんは、自分を責め続けます。『自分が傷をして、仕事を投げしたせいでのを終わらせた』って、消えない傷をに背負うことになるんですよ! そんなの、解放でもなんでもない!」