"解雇された職人が未明に餡を練る" 第16話
「あ……」
拾いげようとして、私の目はその類の題名に釘付けになった。
きではない。パソコンの無質なフォントで印字され、すでに何枚も印刷されたものが、茶封筒のに几帳面に揃えられていた。
用の部に、太い朝体でこうかれていた。
『柳堂 閉のおらせ』
臓が、鐘のように打ち始めた。 類の付に目を落とす。
『創業周記特売の終をもちまして、当はすべての営業を終し、簾をろす運びとなりました。半世紀にわたる皆様の温かいご顧に、より御礼申しげます』
閉の期は――。周特売の、まさにそのだった。
それだけではなかった。 用の束のには、もう枚、公な式が挟まれていた。 所轄の税務署と保健所に提するための、「個事業の廃業届」と「営業許証の返納届」。 そこにはすでに、柳田子の几帳面な跡で、署名と捺印が済まされていた。
「これ……」
喉がカラカラに乾き、指先が凍りついたようにかなくなった。
健太を解放するため。 息子の罪悪を断ち切るために、藤子さんを切り捨てる劇を演じた。 それは本当だったはずだ。さっき、子さん自がそう語った。
だが――もし、最初からを畳む決が固まっていたのだとしたら?
健太が「継ぎたい」と言おうが、「継ぎたくない」と泣こうが、子さんは最初から、周を最にこのを跡形もなく消しるつもりだったのではないか。
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なぜ? 藤子さんを悪者にしてまで追いし、息子を絶望の淵に突き落としてまで、なぜ子さんは、すべてを自分ので壊そうとしているのか。
「美咲さん、何をしているんだい」
たい声が、背からってきた。
振り返ると、帳の入りの暗がりのに、子さんがっていた。 その瞳は、私のにある「閉のおらせ」を、じっと見つめていた。
暗い帳ので、私のにある枚のが、かすかにカサリと音をてた。
『柳堂 閉のおらせ』
その黒々とした文字を見つめたまま、私の指先は凍りついたようにかなかった。背につ子さんの気配は、まるで夜の気がそのままの形をとったかのようにく、静まり返っていた。
「……奥様」
私は振り返った。 子さんは帳机の脇にち、にした湯呑みを机の端に置いた。トカリ、と陶器がい音をてる。老鏡の奥の双眸は、りでも揺でもなく、ただ底れない疲労のをたたえて私を見据えていた。
「見られたからには、隠しようもないね」
子さんは静かに息を吐き、私のからそのを抜き取った。乱暴に奪い取るのではなく、まるで枯れ葉を拾いげるような、力のないつきだった。
「健太に……見せるつもりだったんですか。今、周の特売が終わったあとに」
私の問いに、子さんは答えなかった。
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ただ、そのいを机のに置き、から黒革の売台帳をそっとねた。まるで、見なかったことにするかのように。
「美咲さん。具の準備ができたなら、作業へおき。佐野さんが待っているよ」
「奥様!」
私が声を荒らげたその、背の引き戸が細く軋んだ。
朝の気配が漂う暗い廊の向こうから、揃いな音がづいてくる。 現れたのは、健太さんだった。
腕に巻かれた分い包帯を、角巾の代わりに古い拭いで首から吊っている。寝着の代わりに袖を通したヨレヨレのトレーナーの袖は、包帯を通すためにハサミで縦に切り裂かれていた。 顔は気で、無精髭の浮いた顎を震わせながら、彼は帳の入りにち尽くしていた。
その線は、机のになる台帳の隙から覗く、いの端に注がれていた。
「……健太」
子さんの眉が、かすかにピクリとねた。
健太さんは何も言わず、引きずるような取りで帳へと入ってきた。 を伸ばし、台帳を押し退ける。 わになった『閉のおらせ』の文字を、彼は血った目で凝した。、またと線を滑らせるたびに、健太さんの喉からヒューヒューと苦しげな呼吸が漏れした。
「……これ、何だよ」
掠れた、震える声だった。
「閉……? 周記特売の終をもちまして……営業を終……? 母さん、これ、何なんだよ!」