"解雇された職人が未明に餡を練る" 第18話
……もうね、疲れて果てていたんだよ」
子さんは胸を押さえた。その着物の胸元が、激しくしている。
「腰の骨が軋むたびに、朝起きがるのが億劫で仕方がなかった。砂糖の甘い匂いを嗅ぐだけで、吐き気がするだってあった。……周を迎えたら、もう終わりにしよう。自分の代で、私ので、綺麗に簾をろそう。そう決めて、ようやく息が吸えるようになったんだ」
「だったら……!」
健太さんがずった声をげた。
「だったら、どうして俺を止めてくれなかったんだよ! 俺が帰るって言った、どうして『は畳むから帰ってくるな』って言ってくれなかったんだ!」
「言えるわけがないだろう!」
子さんの鳴のような叫びが、帳の壁を叩いた。
「『私の代で簾をろします』なんて……そんなこと、こので言えるとうかい!? 先代が築いて、のたちが買い支えてくれたを、自分の体が辛いからって理由で潰すなんて……『あの女将がを殺した』『夫がんだらこれだ』って、ろ指を指されるのが怖かったんだよ!」
子さんは両で顔を覆った。 老いた指の隙から、堪えきれない涙が溢れした。
「私はね、卑怯だったんだ。おが『継ぐ』と言って戻ってきた、ゾッとしたよ。これでまた、を続けなきゃいけなくなるって。だけど同に、のどこかでホッとしてもいたんだ。
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……もしおが音をげて逃げしてくれれば、もしおが『継げない』と言ってくれれば、私は『息子の力でを畳まざるを得なくなったれな母親』として、傷つかずに簾をろせるんじゃないかってね!」
息が止まりそうだった。 帳のの全員が、息を呑んでち尽くしていた。
佐野藤子さんを排除した、あの残酷な茶番劇。 息子の逃げを塞ぎ、絶望の淵まで追い詰めた、あの酷な仕打ち。 その根底にあったのは、ただ「息子のを守るため」という崇な親だけではなかったのだ。
自分ので歴史を終わらせる恐怖。 先代に対する罪悪。 世体を守りたいという、あまりにも々しく、矮で、しいののさ。 それらが複雑怪奇に絡みい、息子と老職を巻き込んだ巨な怪物のようになって暴れていたのだ。
「佐野さんを追いしたのもね……」
子さんは涙を拭いもせず、震える声で続けた。
「あの子のためだけじゃなかったんだよ。佐野さんがいてくれたら、は続いてしまう。私が倒れても、佐野さんが健太を支えて、でもでもを回してしまう。……そうしたら、私はぬまで『柳堂の奥様』という檻からられない。佐野さんのが、私にとっても、荷だったんだよ……!」
「奥様……」
藤子さんのから、掠れた声が漏れた。
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子さんは、ゆっくりと藤子さんの方を向いた。 そして、そのに々と膝をつき、両を畳につけた。
「佐野さん。……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
を畳に擦り付ける子さんの背が、子供のようにさく縮こまっていた。
「、あんたのと腕に寄りかかって、何つ報いることもできず……最には、自分の世体を守るために、あんたを棒みたいに追いして悪者にした。……私はね、母親としても、の主としても、としても……とっくに落第だったんだよ」
静寂が、帳を支配した。
カチ、コチ、と古計の振り子がを刻む。 はいつのにかがり、暗かった先のガラス戸から、朝の柔らかなが射し込み始めていた。
健太さんは、震えるを伸ばし、に額をつける母親の、丸まった背に触れた。
「母さん……」
その声には、もうりも、責める響きもなかった。 あるのは、ただ、目のにいるのが「完璧で恐ろしい母親」ではなく、自分と同じように迷い、傷つき、怯え続けてきたのなのだという、遅すぎる気づきだけだった。
「俺さ……」
健太さんは、をすすりながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「仙台で、荷物の配送ルートを組む仕事をしてた……トラックの運転さんたちが『柳田のおかげで今も無事に荷物が届いたよ、ありがとう』って言ってくれるのが、本当に誇らしかったんだ。
誰かの役にってるって、自分のでってるって、えたんだ」
健太さんのきなから、ボタボタと涙がこぼれ落ちる。