"七年目の爪痕" 第7話
その、野寺の元に、微かな笑みが浮かんだ。
「ええ、通常のケースであれば、そうなっていたでしょうね。……しかし、泰造様は抜け目のない、叩きげの棟梁でしたよ」
野寺はちがり、部の隅の棚から、真帆が今朝持参したスーツケースを引き寄せた。
「真帆さん。あなたが、も欠かさず記録し続けた『介護誌』。全冊を、拝見しました」
野寺は番のノートをき、そこにびっしりとかれた記録を慈しむように指でなぞった。
「事のメニュー、薬刻、夜の体位変換の回数、オムツ交換の記録、擦れ防止のマッサージ。それだけではない。々の材費、医療費の領収、介護タクシーの細まで、すべて円単位で貼付されている。……これはね、真帆さん。単なる介護のメモではありません。裁判官を完全に沈黙させる、『絶対な証拠』です」
野寺は鏡を押しげ、徹な声で告げた。
「民法第千条――『特別寄与料』。被相続に対して無償で療養護そのの労務を提供し、被相続の財産の維持または増加に特別の寄与をした親族は、相続に対して相応の銭を請求することができる」
「特別、寄与料……」
「はい。あなたがで提供した労務を、介護福祉士の基準賃および夜労働当で算定し直しました。さらに、あなたが自己負担してきた用品費や替を算すると、その総額は――」
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野寺は計算を差しした。
「最でも、千百万円に達します」
真帆は数字を見つめたまま、言葉を失った。
「それだけではありません」
野寺の目が、獲物を捉えた獣のようにった。
「泰造様は、俊介氏と由梨氏に対してってきた『贈与』の証拠を、すべて私に託しておられました。俊介氏のマンション購入資、由梨氏の留学費用とクレジットカードの焦げ付き補填。これらはすべて、民法の『特別受益』に該当します。……真帆さん、あの母子が主張できる遺留分など、初めから円も残っていないのですよ」
野寺は計を確認した。
午分。
「さあ、俊介氏がの同僚を引き連れて法務局へ向かうです。あの男が描いた甘い絵図を、法の鉄槌で々に叩き割りにきましょう」
同じ頃、川越内の佐伯邸の広なリビングには、甘ったるいの匂いと嬌声が満ちていた。
「まあ、素敵! 俊介さん、このお庭、になったら桜が咲くの?」
リビングの級ソファーにく腰掛け、を組んでいるのは、俊介が勤めるの派遣社員、美咲(26)だった。
のニットから覗くい肌と、派なネイル。昨夜、真帆が追いされたわずか数、俊介のでこの敷に招き入れられた女だった。
「ああ、齢のしだれ桜があるよ。美咲、気に入ってくれたかい?」
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俊介は満面の笑みを浮かべ、美咲の肩を抱き寄せた。
その元には、真帆が磨きげ、切の曇りもなかった桜の無垢材のフローリングが広がっている。だが今や、美咲の履いてきたのついたハイヒールが、無造作にのに放りされていた。
「すっごく気に入った! あんな気くさいオバサンがんでたなんて信じられない。ねえ、くリフォームしようよ。リビングはを基調にして、アイランドキッチンにしてさ!」
「もちろんさ。今、から千万円の融資枠を引っ張ってくる。親父の残したこのと敷を担保に入れれば、俺の決済つで即実だ」
俊介は得げに胸を張った。
キッチンからは、淑恵が嫌でをいながら、級な器を並べる音が聞こえてくる。
「美咲さん、おにうかしら。座の老舗で買ってきた特別なダージリンよ。あの物の緑茶しかせなかった任者とは違って、あなたのような華やかなお嬢さんが来てくれて、佐伯もようやく息を吹き返したわ」
淑恵は恭しくティーカップを美咲のに置いた。
泰造が病で苦しんでいた、度としてその敷居を跨ごうとしなかった女が、真帆がいなくなった途端、奥の主のように振るっている。
「ありがとうございます、お母様」
美咲が媚びるような笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、私の部も決めたからね!」