"七年目の爪痕" 第10話
「やはり、それを主張されますか、俊介殿」
野寺の元に、酷極まりない完璧な笑みが浮かんでいた。
「では、ご覧に入れましょう。泰造様があなた方母子のために用された、本当の『遺産』のすべてを」
黒いファイルの表には、文字で『特別受益並びに寄与分算定資料』と箔押しされていた。
玄関の狭い空に、息が詰まるような沈黙が落ちる。
俊介はに膝をついたまま、充血した目でそのファイルを凝していた。
「……何だ、それは。脅しのつもりか?」
「脅しなど滅相もない。すべて厳然たる事実を綴った目録ですよ」
野寺弁護士は袋をはめた指先で、最初の枚をめくった。
「俊介殿、あなたが声に主張される『遺留分侵害額請求権』。被相続の財産の定割を、法定相続が最限度確保できる権利……確かに民法が認める正当な権利です。しかしね、遺留分を算定するにあたっては、提となるルールがする。民法第百条――『特別受益者の相続分』です」
野寺は枚の細を俊介の目のに突きつけた。
そこには、に俊介がさいたま内に購入したタワーマンションの売買契約と、当の送記録の控えが克にコピーされていた。
「千百万円。泰造様の個座から、あなたの菱UFJの座へ直接振り込まれている。
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名目は『宅取得資贈与』。……さらに」
ペラリ、と淡な音をてて次のページがめくられる。
由梨の顔が、瞬でのようにくなった。
「佐伯由梨殿。あなたが代の頃、度にわたって渡航された英国留学の学費、現活費、計百万円。さらににあなたが抱えたリボ払いの焦げ付き、百万円の括弁済。これら計千百万円も、すべて泰造様が務の役員報酬からて替えて支払っておられる」
「な……なんで、そんな昔のことを……!」
由梨が甲い声をげてずさる。
「泰造様は職であり、同に経営者でしたからね」
野寺は鏡を押しげた。
「納帳の、切のの端枚に至るまで、すべて公証役で確定付を取り、保されていたのですよ。あなた方兄妹が『親のは自分の』とばかりに無し、い散らかしてきた総額は、贈与として相続財産の基礎に持ち戻されます」
野寺は卓を叩く仕もせず、暗唱するように告げた。
「本の評価額に基づく佐伯の総遺産額から、あなた方が過に受け取った特別受益を控除した……あなた方の遺留分算定額は、すでに完全に『マイナス』です。もらう権利など、最初から円も残っていません」
「嘘だッ!」
俊介がちがり、ファイルを奪い取ろうとを伸ばした。
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だが、野寺はその腕を類の角でたく制した。
「まだ終わりではありませんよ、俊介殿」
野寺の線が、段とく、鋭利になった。
「あなた方の権利がゼロであることと、あなた方に『負債』がないこととは、全く別の問題です」
野寺はもう束の類――真帆がき溜めた介護誌から抽された膨なデータ集を取りした。
「先ほど申しげた、真帆さんの『特別寄与料』です。民法千条に基づき、庭裁判所へ申してをう予定の請求額は、適正な介護報酬基準および夜当を算して千百万円。この寄与料債権は、相続である淑恵さん、俊介殿、由梨殿の名に対して、法定相続分に応じて請求されることになります」
玄関のに、乾いた計算結果が突きつけられた。
「淑恵さんに千百万円。俊介殿に百万円。由梨殿に百万円。……あなた方は、この敷から円も得られないどころか、真帆さんに対して計千百万円以の現を直ちに支払わなければならない『債務者』なのです」
「な……な、なんですって……!?」
淑恵が胸を押さえ、壁に倒れ込んだ。
百万。由梨はにへたり込み、いたが塞がらない。
「払えるわけがないでしょう! そんな、どこにあるっていうのよ!」
由梨の切り声が響く。
「払えなければ、あなた方の与座、産、預貯、すべてに差し押さえの続きを執するまでです。
……ああ、俊介殿に関しては、与の差し押さえを配する必すらなくなるかもしれませんがね」