"七年目の爪痕" 第12話
淑恵が、執官の腕を振り解こうと暴れていた。
だが、裁判所の腕章を巻いた執官たちは、表つ変えずに内へ踏み込み、財具に次々と差押印の赤を貼り付けていく。
「佐伯淑恵殿、佐伯由梨殿。退期限は本の正午をもって切れております。これ以の妨害は、公務執妨害罪が成します」
執官の無質な宣告とともに、淑恵が切にしていたアンティークの飾り棚、ブランド物の、由梨の買い漁った靴のが、次々とのる庭先へ運びされていった。
のに、級具が乱暴に積みげられていく。
「真帆さん! あんた、のはないの!?」
淑恵がをねげながら、真帆の元へ駆け寄ってきた。
かつての気品など微も残っていない。濡れ鼠のように乱れた髪、剥げ落ちた化粧、血った。
「、私がどれだけあなたに目をかけてあげたとっているの! まわせてあげた恩を忘れて、義理の母をのに放りすなんて、罰がるわよ!」
真帆は、に塗れた淑恵を見ろした。
その瞳には、りも、憎しみもなかった。
ただ、どこまでもたく澄んだ、絶対な軽蔑だけが宿っていた。
「目をかける……?」
真帆の声は、音のに静かに、しかしはっきりと染み渡った。
「お義母さん。お義父さんがをしてベッドで震えていた夜、あなたが何と言ったか覚えていますか? 『汚いから救急は呼ばないで、所の目があるから』そう言って、話線を抜いたんですよ」
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淑恵の顔が、恐怖に歪んだ。
「お義父さんの褥瘡が酷くなって、肉が腐りかけたとき、あなたが持ってきたのは消毒液ではなく、遺産相続の委任状でしたね。識のないお義父さんの指を取って、無理やり拇印を押させようとした。あのの痛ましそうな、お義父さんの涙を、私は度だって忘れたことはありません」
真帆は歩、淑恵にづいた。
「罰なら、とっくにっています。……あなた方のその浅ましさに」
「ひっ……!」
淑恵は鳴をげて尻餅をついた。
その、のから、ずぶ濡れの男がを引きずりながら現れた。
俊介だった。
警察での過酷な取り調べの、元引受となった弁護士によって釈放されたばかりの姿だった。
ネクタイは千切れ、ワイシャツの汚れは落ちていない。かつて方の次として威張り散らしていた男は、いまや端の浮浪者と見分けがつかなかった。
「真帆……!」
俊介は庭をうようにして、真帆の靴元にすがりついた。
たいが、真帆の黒い革靴を汚す。
「頼む……頼むから許してくれ! 訴えを取りげてくれ! このままじゃ俺は起訴されて、刑務所きだ! 借も返せない、もクビだ、すべてを失っちまうんだよ!」
俊介は額を庭のに擦り付け、真帆の首にしがみついた。
涙ととが混ざりい、ぐちゃぐちゃになった顔を見げる。
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「俺が悪かった! おの言う通りにする! これからは俺が事をやる、おを支える! やり直そう、の夫婦じゃないか! 俺たち、しって結婚したんだろ!?」
。
その言葉を聞いた瞬、真帆の胸の奥で、最の糸がプツリと音をてて千切れた。
「……?」
真帆は、首に絡みつく俊介の指を、ややかに見つめた。
「の夜、あなたが私に言った言葉を忘れたの?」
真帆はを歩引き、俊介のを容赦なく振り払った。
「『子ども産めない穀潰し』。『用済みなんだよ』。……それが、あなたのの結論だったじゃない」
「そ、それは……あのはに血がっていて……!」
「いいえ。あれが、あなたの本よ」
真帆はポケットから、あらかじめ記入を済ませていた緑のを取りした。
あの、俊介が真帆の元に投げ捨てた、あの婚届だった。
真帆の欄には、丁寧で揺るぎない跡で、署名と捺印がなされていた。
真帆はそれを、のに跪く俊介の胸元へ、静かに落とした。
「役所へは、野寺先を通じて今朝番で提を完しました。……私たちは、もう赤のです」
「真帆……! 真帆ぉぉッ!!」
俊介がのから絶叫する。
だが、真帆は度と振り返らなかった。
野寺弁護士が礼し、執官たちに図を送る。
俊介と淑恵、由梨のは、作業員たちのによって敷へと無残に押しされ、い鉄製の扉が、ギリギリと音をてて内側から閉ざされた。