"頬を打たれた契約社員の正体" 第3話
しかもパソコンも使えないとわれている老に、らかにこなせるはずのない無理難題だった。キラはそれを分かっていて命じていた。
「もし終わらなかったら分かるわよね。契約更しないから。こので職を失うって、なかなかこたえるでしょうね。」
キラの元に勝ち誇った笑みが浮かんだ。周りの若が気の毒そうに目をそらす。だが誰も助けようとはしなかった。かばえば次は自分が標にされる。それがこの職の暗黙のルールだった。
「部、それはいくらなんでも……!」
たまらず朝野が声をげた。「今からなんて絶対に無理です。私も伝いますから、せめて期限を——」
「朝野さん。」
キラはピシャリと遮って切った。
「あなたさっきから何なの? そんなにこのじいさんの肩を持ちたいなら、あなたも緒にこの会社を辞める? 代わりはいくらでもいるのよ。」
朝野の顔がこわばった。はそんな朝野をそっとで制した。
「お嬢さん、いい。私がやろう。」
そして静かにダンボール箱を自分の机に引き寄せた。
「へえ、やる気だけは丁なのね。ま、せいぜい頑張ってちょうだい。無理だとうけど。」
キラはそう言い捨てて自分の席へと戻っていった。は本目の資料をに取った。その瞬、彼の目のが変わった。この取引先、見覚えがあった。いや、見覚えどころではない。
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この会社の主った取引先の名は、創業以来彼のにつ残らず刻まれている。どの会社といつどんな縁を結んだのか。どこで苦労し、どこで助けられたのか。その全てがにとってはが子の成を見守るようないそのものだった。だから彼にとってこの作業は単なる入力ではなかった。
は静かにパソコンに向かうと、キーボードを打ち始めた。その指のきに若い朝野が目を見張った。
い。しかも、ただいのではない。々を止めては資料の数字をじっと見つめる。何かを確かめるように。は打ちながら、資料のにいくつものおかしな点を見つけていた。取引の条件が自然に社に偏っている。相よりらかにい額で発注が繰り返されている。商売の最線にってきたにはそのがに取るように分かった。これは誰かが会社のをどこかへ流している。自然な発注は全て同じ社に向かっていた。そしてその取引を承認していたのは決まってキラの捺印。そしてそのには専務・杉の名があった。
は静かにその符号をに刻んだ。だが表はしも変えなかった。まだ証拠がりない。ここで騒げば尻尾を掴んだ相に逃げるを与えるだけだ。い商売で彼はそれを嫌というほど学んでいた。
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は何わぬ顔で入力を続けた。そして疑わしい取引のページだけはのにそっくりき移していった。鍛えた記憶力はになってもしも衰えていなかった。
昼が過ぎ、夕方になり、フロアのかりがつまたつと消えていく。それでもの指は止まらなかった。朝野は配で帰るに帰れなかった。そっとづき、缶コーヒーを机に置く。
「あの、し休んでください。根を詰めすぎです。」
「ありがとう、お嬢さん。だがもうしだからな。」
は穏やかに笑った。その顔に疲れは見えなかった。むしろ久しぶりにききとしていた。現のの匂い、数字の向こうにあるの営み、それに触れているだけでこの老は若い頃に戻ったように力が湧いてくるのだった。
夜のを回った頃、は最の枚を打ち終えた。はかかると言われた作業を彼はたったで仕げていた。しかもただ入力しただけではない。誤記を正し、抜けを補い、あの審な取引にはそっと印をつけた別の控えまで用していた。ガラんとしたフロアで朝野だけがその仕事ぶりを見届けていた。
「さん……あなた、体何者なんですか?」
わずそうにしていた。ただの神の寄りができる仕事ではなかった。は答えなかった。ただ優しく笑ってこう言った。
「何、の功のただの仕事だよ。」
そして打ちげた資料をそっと揃えてキラの机に置いた。