"頬を打たれた契約社員の正体" 第9話
その姿勢をは静かに見守っていた。
——
方、フロアでは役員会の結末が社員たちに伝えられた。杉の失脚、キラの格。そして創業者がこの会社をて直すために戻ってきたこと。そのらせを聞いて、若い社員たちのにしずつるさが戻っていった。
とりわけ朝野は胸がいっぱいだった。あの優しかった老、打たれても揺がなかったあの背が、この会社の創業者だった。そして自分にかけてくれた言葉のつつが今、く胸に染みた。
「番いのをどう扱うか。そこにその会社の本当の底がる。」
あの言葉を、このはを持って示してくれたのだ。
やがてがフロアに姿を見せた。社員たちの線が集まる。はまっすぐに朝野の元へ歩み寄った。そして驚く彼女に々とをげた。
。「お嬢さん、あなたには番礼を言わねばならない。」
「え……そ、そんな、私は何も……。」
「あなたは誰も声をげられないで、たったいもののためにちがってくれた。あなたのようながでもいてくれたこと。それが、この会社がまだしていなかった何よりの証だよ。」
朝野の目から粒の涙がこぼれ落ちた。い辛い々が報われた瞬だった。
「あの、さん……つだけ教えてください。」
朝野が涙をぐっとこらえて尋ねた。
。「あなたにをしたのは、体誰だったんですか?」
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はしい目をした。
「差ししの名はなかった。だが、便箋の端にさなシミがあってな……おそらく涙の跡だ。相当ないであれをいたのだろう。」
そしてフロアの片隅をそっと見た。そこにはこのをすり減らして辞めていった若い社員がかつて座っていた席があった。
「辞めていったものかもしれない。今も残って耐えているものかもしれない。誰であっても、その勇気に私は答えねばならない。の鳴を握りつぶさない。それが会社というものだ。」
その言葉にフロアのあちこちでそっと目を伏せるものがいた。声をげられずにいた自分たちのことをってのことだった。
はフロアの央にち、社員たちの顔をゆっくりと見渡した。
「みんなに聞いてほしい。」
その声は静かだったが、フロアの隅々までまっすぐに届いた。
「私がこの会社を始めた、はまるでなかった。あったのは焼け跡のさなと若い仲たちだけだ。料もろくに払えなかった。それでもみんなやめずに残ってくれた。」
の声に懐かしさが滲んだ。
「なぜだとう? 仲だったからだ。困ったは支えう。誰も見捨てない。それがこの会社のたったつの決まりだ。私はその約束のにこの会社をてたんだ。」
社員たちは息を殺して聞き入っていた。
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「いつのにか、その約束が忘れられていた。数字だけを追い、を具のように使う。いものの涙を踏みつけて平気でいる。そんな会社を作るために私は涯をかけたのではない。」
はくをげた。この会社の全ての社員に向けて。
。「気づくのが遅くなった。すまなかった。だが今から変えていく。もう度、がとして切にされる会社に、若い君たちが笑って働ける所に。どうか、力を貸してほしい。」
シーンと静まり返っていたフロアに、やがてどこからともなく拍が起こった。つ、またつと、それはきな波になってフロア全体を包んでいった。泣いているものもいた。ずっとこんな言葉を待っていたのだ。ずっと誰かに自分たちを見つけて欲しかったのだ。はその景を目を細めて見つめていた。かつて自分と仲がを語りったあのさなのが、今、このきなフロアに確かに蘇ろうとしていた。正体を隠し、雑用に耐え、頬を打たれた。その全てはこの瞬のためにあったのだ。老いた胸に静かな満が広がっていった。
拍ので、はそっと胸の社員証にを当てた。そしてのでき妻に語りかけた。
——見ているか? うちの会社はまだ丈夫だ。ちゃんとにったよ、と。
——
数ヶ、会社はきく変わっていた。
杉専務は会社を追われ、正の責任を法ので問われることになった。