"毎日1センチ狭くなる庭" 第3話
認症の妄言だと笑いばせればどれほど楽だろう。だが、老が杭を打つときのあの械のように正確なつきと、にく突き刺さった太い属杭の触が、これは単なるボケ老の奇ではないという嫌な予を私に植え付けていた。
そのから、獄のような毎朝が始まった。
3目、『1024-3』。 4目、『1024-4』。 5目、『1024-5』。
毎朝5。私が止めようと窓から叫んでも、老は切の反応を示さず、ただ正確に、1センチずつがの庭へ杭を打ちめてきた。 たかが1センチ。5で5センチ。 しかし、覚な侵蝕以に、私の精神は削られていった。自分の全なテリトリーが、得体のれない狂気によって毎確実に犯されていく恐怖。
「ねえ、お願いだから度、あなたから隣ののに注してよ。私、もう気が悪くて庭にられない……」 週末の夜、私はすがるようないで健太に頼み込んだ。しかし、缶ビールをあおっていた健太は、忌々しそうに舌打ちをした。
「お、まだその話してるのか? 相は80過ぎのジジイだろ。適当にあしらっておけばいいんだよ。体、ご所トラブルを起こして、このにめなくなったらどうするんだ? おの神経質な性格のせいで、俺のでのくつろぎまで奪わないでくれ」
健太の言葉に、私は絶望した。 このは、私を守る気など切ないのだ。
広告
自分の平穏な活さえ保てれば、妻がどれほど怯えていようと関係ない。専業主婦で養ってやっているんだから、その程度のストレスはしろと言わんばかりの態度だった。
夫婦という防波堤が崩れった今、私を助けてくれるのは部しかない。 翌朝、私は6本目の杭が打たれたのを確認すると、着を羽織り、町内会のへと向かった。この異常な老について、所のたちが何もらないはずがない。そうったからだ。
しかし、それはこの閉鎖な田舎町が抱える、さらにいへの入りに過ぎなかった。
町内会の吉岡(65)のは、古くからの旧らしい派なを備えていた。
「——というわけなんです。勝に敷内に太い属杭を打ち込まれて……お願いです、吉岡さんから野寺さんに注していただけませんか?」
リビングに通された私は、スマホで撮した庭の写真を吉岡に見せた。のに然と並ぶ『1024-1』から『1024-6』までの属杭。 しかし、写真を見た瞬の吉岡の反応は、私の予とはきくきくかけれていた。
るわけでも、驚くわけでもない。 吉岡はただ、苦々しいものを見たかのように眉にい皺を寄せ、く、いため息をついたのだ。そして、差しされたお茶にもをつけず、声をひそめて言った。
「美咲さん。……あの爺さんには、関わらない方がいい」
広告
「え……? でも、うちの敷なんですよ? らかに違法為です」
「あの野寺という男はね、昔からこの町の変で通っているんだ。何を言っても通じないし、に刺激すると何をされるかわからん。気にしないで放っておくのが番だよ」
「放っておくなんて無理です! 毎1センチずつ、うちの庭が侵されてるんですよ!?」
私がわず声を荒らげると、吉岡は気まずそうに線を泳がせた。 その態度には、単なる「厄介者への関わりたくないい」だけではない、何か別の……この町全体が隠そうとしている『暗黙の解』のようなものが透けて見えた。
「……とにかく、自治会としてはをせない。あれは個な境界トラブルだ」 吉岡は突っぱねるように言い、私を追いすように玄関へと促した。
自治会がダメなら、警察だ。 私は吉岡のをると、そので駅にあるさな駐所へと向かった。
対応にたのお巡りさんは、私の話を聞き、写真を確認すると、困ったように眉をひねった。
「うーん……なるほどねえ。でも奥さん、これはいわゆる『民事介入』というやつでしてね。境界線のトラブルやの所権については、警察が直接取り締まることはできないんですよ」
「でも、法侵入ですし、脅迫もされました! 『にたくなければ触るな』って……!」
「うーん、でも実際に危害を加えられたわけではないでしょう? おじいさんの言も、認症による妄言の能性がいですしね……」