みかん小説
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"毎日1センチ狭くなる庭" 第8話

モニター越しの夫の姿に、私の息が止まった。

りになる、傘もささずに庭に佇む健太。 私はスマホの画面を必でタップし、ライブカメラの映像をズームした。

健太はまみれの面にドサリと膝をついた。価なスーツのズボンがに染まっていくのも構わず、で濡れ鼠になりながら、7本目の杭『1025-7』に顔をづけた。 懐からスマートフォンを取りし、ライトのを杭の根元に照射している。

何をしているの……?

引き抜こうとしているのではない。健太は、杭のの表面の隙を、自分の指の幅を使って必に測っていたのだ。何度も、何度も、角度を変えて。

やがて健太は、がくがくと肩を震わせた。 ライトを照らすは激しく揺れ、その顔には吐き気すら催しているような、い恐怖が張り付いていた。

健太は「らない」のではない。 あの杭が何をしているのか、この庭で何が起きているのかを、最初から全部っているのだ。だからこそ、私に「気にするな」「ヒステリーを起こすな」と言い張り、見ないふりをさせようとしていたのだ。

健太はがると、の玄関には戻らず、け垣の隙を抜けて隣の野寺の敷へと消えていった。

夜がけても、まることなくり続いていた。

5。 ガツン、ガツン……。

音に混じって、あの鈍い属音が響いた。

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私がリビングの窓からを見ると、野寺老がレインコートを着て、8本目の杭『1025-8』を打ち込んでいるところだった。

の顔は、昨まで以に痛々しいほど蒼だった。ハンマーを振るう腕は力なく震え、本の杭を打つだけで息を荒らげて倒れそうになっている。 老は打ち終えると、私の方を度も見ることなく、逃げるように自分のへと戻っていった。

の姿が消えるのを待って、私は靴を履き、傘を差して庭へした。

昨夜、健太がで屈み込んでいた所。『1025-7』と、今打たれたばかりの『1025-8』の周辺だ。

「……嘘でしょ」

杭の根元を見た瞬、私は傘を握る烈な寒気がった。

昨夜からののせいだけではない。 壇の縁を形作っていたレンガが、自然に内側へ……の方向に向かって傾いていたのだ。

よく見ると、7本目と8本目の杭の周りのが、直径20センチほどに渡って、すり鉢状にぐんにゃりと凹んでいた。 度にして、わずか2〜3センチ程度。 注く観察しなければ見落としてしまうような微な変化だ。だが、昨までは確実に平らだったが、確にへと「落ちて」いた。

私は靴の先で、その凹んだをそっと踏んでみた。

グニャリ。

の抵抗が、おかしかった。 面を踏んでいる触ではない。まるで、の皮に、巨の空洞が広がっているかのような、頼りない沈み込み。

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にたくなければ、その線に触るな』 『命の猶予を測っているんだ』

野寺老の掠れた声が、脳内で蘇った。

は、境界線を主張するために杭を打っていたのではない。 毎朝1センチずつ杭をめることで、の『盤沈』の速度と、変形の範囲を精密に測定していたのだ。

そして、あの30周期の。 30センチ分のデータを取るたびに、の空洞へ杭を落させ、盤の緩み具を確認していた……?

ならば、なぜ今朝の『1025-8』の所で、表に目できるレベルの凹みが始めたのか。 答えはつしかなかった。 の崩落が、ついにくまで迫ってきているのだ。

「そんな……こんな欠陥宅、どうして検査を通り抜けたの……?」

私のから、傘が滑り落ちそうになった。 このは、私と健太が全財産を注ぎ込んで買っただ。私の独代の定期預、数百万もすべてとして消えた。

そのが、いま元から崩壊しようとしている。

私は震えるでスマートフォンを取りし、凹んだと傾いたレンガ、そして杭の番号を何枚も写真に収めた。 その元でカシャリとさな音がした。

庭の飾りに置いていたゴルフボールが、傾いたの傾斜を滑り落ち、7本目の杭が刺さる凹みのへと吸い込まれていったのだ。

コロコロ……ポトン。

は凹みのにあったさな隙にハマり、そのままスーッとへと消えて見えなくなった。

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