"毎日1センチ狭くなる庭" 第11話
その、1階からガチャリと玄関のく音が聞こえた。
「おい、美咲! 濡れた傘が散らばってるぞ! 何やってんだよ!」
嫌そうな健太の声だ。
私は覚との控えをスマホで素く撮すると、類を元通り庫に戻し、鍵をかけた。 そして、階段をゆっくりとりていった。
玄関につ健太の顔を見た。 私を「使えない専業主婦」と見し、笑を浮かべるれな男。
「お、なんだよその目は……」
健太が審そうに眉をひそめる。 私は、今までに度も見せたことのない、最に穏やかで、酷な笑顔を浮かべて言った。
「ううん。お帰りなさい、健太さん。夕飯、何にしようか?」
この底なしの沼のようなで、主婦の酷な反撃が、今静かに始まった。
翌朝、私は何事もなかったかのように健太の朝を用した。
焼き魚にだし巻き卵、そして噌汁。噌汁の具には、健太が昔から嫌いだと公言していたミョウガを、気づかないほど細かく刻んで忍ばせた。
「おい、美咲。なんかお、急に素直になったな」
聞に目を通しながら噌汁をすする健太が、チラリと審そうに私を見た。
「ええ。健太さんの言う通り、私が神経質になりすぎていたみたい。反省したの」
私が完璧な妻の微笑みを浮かべて答えると、健太はで笑い、満そうに頷いた。
「わかればいいんだよ。女は余計なことを考えず、しくを守ってればいいんだ。
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俺をらせるなよ」
「ええ、気をつけるわ。ってらっしゃい」
健太が社し、そのが見えなくなるのを確認した瞬、私の顔から切の笑みが消えた。
午8。野寺老が9本目の杭『1025-9』を打ち終え、い取りでへ戻っていくのを見届けてから、私はすぐに着を羽織ってをた。
向かったのは、隣町の図館にある「郷資料」だった。
カビと古いの匂いが充満する暗い閲覧で、私はマイクロフィルムの検索端末のに座った。 調べるのは、昨、野寺次郎が嘲笑うようににした「40の化」の歴史だ。
この町——神町(かみやちょう)の40、1980代半ばの方記事を、代順に片っ端から検索していく。
画面をスクロールし続けること1。私の指が、ぴたりと止まった。
昭61(1986)714付の『神報』。 方版の隅にあるさなベタ記事の見しに、その名があった。
『都化学神、突如閉鎖——事業縮と説、民には困惑の声』
さらにその翌、翌々の縮刷版を追っていくと、より穏な見しが目にび込んできた。
『廃液漏の噂を否定 都化学「盤に問題なし」と回答』 『旧跡の売却を始 宅として再発へ』
記事を読みめるうちに、背筋にたいものがった。
当の都化学神では、濃度の酸性化学廃液を処理するための巨な貯蔵タンクと配管が、の腐によって破損していたのだ。
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量の危険な廃液がくへと漏れし、周辺の特殊な質盤を何にもわたって状に溶かし続けていた。
側は規模な盤沈の兆候を把握していながら、政への報告を怠り、事件を極秘裏に隠蔽。漏事故の発覚を恐れて突如を閉鎖すると、施設を完全には撤せず、から突貫事でをかぶせて隠し、宅として分譲売却していたのだ。
そして、その当の聞に掲載されていた関係者名簿の欄に、決定な名を見つけた。
都化学・常務取締役:野寺次郎。 現主任測量技師:野寺清。
野寺老の名は「清(きよし)」といった。
は実の兄弟だったのだ。 弟の次郎は会社の隠蔽作を主導し、化学廃液で溶けた「危険帯」のに欠陥宅を建てて売りさばいた悪徳役員。 そして兄の清は、現の危険を誰よりもく察しながらも隠蔽を止められず、事故の恐怖と罪の識に苛まれ続けた、劇の元測量技師。
「あののにあるのは、ただの空洞じゃない……」
40の化学廃液によって侵蝕され、今なお崩壊を続けている濃度の危険帯。 その真に、私と健太が全財産をして買ったが建っているのだ。
私は画面を印刷し、震えるでそのを握りしめた。
野寺老が毎朝打っている杭は、単なる嫌がらせでも、認症の奇でもなかった。