"会長を救った孤児と十年目のDNA" 第10話
健造はく頷いた。
翌朝、田は勇気の部の周辺を静かに確認して回った。
変わったことは見なかった。
しかし、客のドアをけただった。
勇気の着が、いつもとし違う所にかかっていた。
勇気は毎晩、着を子の背もたれの端にかける。
田は浜田からそれを聞いてっていた。
しかし今朝の着は、背もたれの央にかかっていた。
田は着をそっとに取った。
ポケットのを確認していく。
の内ポケットに、い触があった。
指を入れて取りす。
健造の個印だった。
朱肉の乾いた象製のさな印鑑。
堀田財閥の類にのみ使われる、代替の効かないものだった。
田はその印鑑をのひらに乗せた。
しばらく見つめる。
それから、勇気の着を元通りに子に掛け直した。
田は印鑑を持って、健造の執務へ向かった。
健造は印鑑を見た瞬、鋭く目を細めた。
「これはどこにあった?」
田が状況を説する。
健造はく言った。
「昨、庫のに入れておいた」
のに、い沈黙が落ちた。
健造の個印が庫からて、勇気の着のポケットに入る。
そのためには、庫をけられるが必だった。
そして昨、邸宅に来た部のはしかいない。
田は言葉を絞りした。
「悟が廊で止まっていたのは、執務に入るためだったかもしれません」
広告
健造は何も言わなかった。
ただ、その目が静かに、しかし確実に変わった。
りではなかった。
それよりももっとい、暗い何かだった。
健造は印鑑を庫に戻した。
そして田に指示をした。
「今の午、全員を応接に集めなさい。浜田も含めて」
田は尋ねた。
「勇気もですか?」
健造は頷いた。
「勇気も」
健造の声は穏やかだったが、田はその穏やかさのにある決のさをじ取った。
午2。
邸宅の応接に、浜田、田、そして勇気が集まった。
健造が印鑑の件を告げると、浜田は驚いてをで覆った。
田は静かに状況を補説した。
そして、勇気に向かって言った。
「着のポケットにこれが入っていた。当たりはあるか?」
勇気はテーブルのの印鑑を見た。
それから、自分の着を見る。
それから、田の目を見た。
「ありません」
勇気ははっきりと答えた。
「でも」
勇気はしを置いた。
「分かります。どうやってそこに入ったか」
部の全員が、斉に勇気を見た。
勇気は子からちがった。
自分の着をに取る。
内ポケットの入りを指で示した。
「このポケット、入りが狭くて縦になっています」
勇気は指をかして見せた。
「自分で物を入れるは、正面から斜めに差し込みます」
勇気は印鑑を指さす。
「でも、印鑑が入っていた角度は、からまっすぐ落とした角度でした。
広告
自分では作れない角度です」
田が尋ねた。
「どうして分かる?」
勇気はすぐに答えた。
「取りす、引っかかる方向が違いました」
勇気は振りを交える。
「から入れたものはに向かって引っかかります。横から入れたものは横に引っかかります」
部が静まり返った。
勇気は言葉を続けた。
「それに、昨の朝、着をかけたのは子の背もたれの端です。毎そうしています」
勇気は着を見つめた。
「でも今朝は央にかかっていました。誰かが度取って、また掛け直したんだといます」
浜田がさく息を吸い込んだ。
田は勇気をじっと見ていた。
10歳の子供が、記憶と観察だけで状況を再構築している。
論理の穴がまったくない。
躍も切なかった。
健造はソファの背もたれに体を預けた。
勇気を静かに見つめる。
その目に、今まで見せたことのない表が浮かんでいた。
誇らしさとも、しさとも取れる複雑なだった。
「では、誰がやったとう?」
健造が静かに問いかけた。
勇気は健造を真っ直ぐに見た。
昨の男の名をにする。
「悟という」
勇気は根拠も続けて述べた。
「廊で止まっていたこと。執務の所をっていたこと。そして、自分の部への廊が分岐していること」
健造はく頷いた。
それから、田に線を移した。
「悟に連絡を取りなさい」
健造の声はく響いた。
「今すぐ邸宅に来るように。話があると」