"会長を救った孤児と十年目のDNA" 第27話
「違う」
あかりは首を横に振った。
「でも、緒にいると分かった。このは物を見る、いつも初めて見るみたいに見るって」
勇気は頷いた。
それからの建物を見た。
からまだ械の音が聞こえていた。
健造はあかりと勇気のしれた所にち、を見ていた。
田が隣に来て、静かに言った。
「会。顔がいいですね」
健造は田を見た。
「そうか」
「はい。久しぶりにそういました」
健造は田に何か言おうとして、やめた。
言葉にするより、田はすでに分かっていた。
22隣にいたには、言葉はいらなかった。
健造はまた、あかりと勇気を見た。
あかりが何かを言い、勇気がこくりと頷いた。
桜のびらが数枚、のを通り過ぎていった。
その夜、邸宅に戻った勇気は夕を終えてから自分の部にった。
デスクのに座り、帳をく。
幸介がいたページを、最初から順にめくっていった。
設計図。
数式。
メモ。
りき、図面、幾枚も。
丁寧にめくった。
最のページまで来て、空のページを確認する。
今いた職の言葉の隣に、まだ余があった。
勇気は鉛を持ち、その余に何かをいた。
今で見たこと、聞いたこと。
械の振がのひらに伝わったの触。
言葉でけるものだけを、丁寧にいた。
き終えて、勇気は帳を最初のページに戻した。
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幸介の字が、最初のページにあった。
付とい文。
『今もいい仕事ができた』
それだけがかれていた。
勇気はその文をじっくりと読んだ。
それからしいページをき、今の付をいた。
そのに文いた。
『今初めてに入った。械は温かかった。』
勇気は帳を閉じた。
それを胸元にしまわずに、デスクのに置いた。
今まで肌さず持ち歩いていた帳を、初めてデスクのに置いた。
それがどういうなのかを、勇気自が分かっていたかどうかは分からない。
しかし帳はデスクのに静かに置かれ、部の灯に照らされていた。
廊を健造が通りかかったのは、そのしだった。
勇気の部のを通る、扉のからが漏れていた。
いつものことだった。
しかし今夜は物音がしない。
健造は扉のにった。
ノックしようとして、を止めた。
そのまま廊にっていた。
扉の向こうで、勇気が何をしているかは見えない。
しかし健造には、この子供が今夜何か切なことを静かにしているという気がした。
急かす必はなかった。
見守る必もなかった。
ただここにいる。
それだけでよかった。
健造は廊かられ、自分の執務へ戻った。
デスクに座り、灯をつだけつけた。
引きしから、幸介の写真を枚取りす。
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で作業着を着て、笑っている写真。
健造はそれを見た。
今、勇気が械にを当てた、目を閉じた顔。
それがこの写真の顔になった。
なって、しかし別の顔だった。
幸介ではなく、勇気だった。
同じでありながら、別のだった。
それでいいと健造はった。
幸介の代わりではない。
勇気は勇気だった。
しかし、この帳が、このが、このが。
幸介から勇気へ、言葉ではなく形で伝わっていく。
それが健造にははっきりと分かった。
写真を元の所に戻し、引きしを閉める。
灯を消した。
窓からを見ると、庭がのに照らされていた。
縁のに、勇気がかつて並べたの跡が微かに見えた。
健造はそれを見ながら、い窓辺にっていた。
翌朝。
堂に全員が揃った。
健造、あかり、勇気。
浜田、田。
子が引かれ、器が並べられる。
湯気のつ噌汁が配られた。
あかりは昨よりさらに顔が良かった。
勇気は席につく、箸をに取った。
箸置きのに置き直す。
いつもの癖だった。
しかし、その作が今朝は何か違って見えた。
迫な列ではなく、ただ自然にがいたような。
そういう穏やかさがあった。
あかりがそれを見ていた。
何も言わなかった。
ただ見守っていた。
健造も見ていた。
田も見ていた。
誰も何も言わなかった。
ただ、卓に並んだたちが、それぞれのペースで朝を始めた。
窓からの柔らかいが差し込んでくる。
の方向から、くに械の音が聞こえた。
が静かに始まった。
受け継がれるべきものは、げさな言葉のにはなかった。
この朝の卓のように、誰かが誰かの隣に座り、同じを過ごす。
それを繰り返していくに、静かに宿っていた。