"乳がん手術日にゴルフへ行った夫の末路" 第1話
のたい空気が、窓の隙から忍び込んでくるような夜だった。
私は息子の優馬を寝で寝かしつけ、静かにドアを閉めた。
さな寝息が、扉の向こうで規則正しく続いている。
暗い廊を歩き、リビングのドアの取っにをかけた。
ゆっくりと押しく。
部のは、テレビの液晶画面が放つ青いで照らされていた。
夫の啓介が、ソファーにく腰をろしている。
私がリビングに戻った気配に気づき、彼はこっちを見た。
いつもなら、スマートフォンから目をさないだ。
だが、今夜は違った。
テレビのリモコンを、両で膝のに置いたままにしている。
背筋をし伸ばし、改まった顔をしていた。
私はテーブルの向こう側に歩み寄った。
そのまま座らずに、ったまま彼の顔を見つめた。
啓介がしだけ体をに乗りした。
そして、をいた。
「来週、術なんだ」
私は表を変えなかった。
黙ってその顔を見つめ続けた。
啓介が言葉を継ぐ。
「胃ポリープ」
彼はさく咳払いをした。
「1泊2で、全麻酔」
彼は言葉を探すようにしだけ目を泳がせた。
「まあ、したことないって先も言ってた」
彼はそう言って、1度言葉を切った。
こちらを見げる。
その目には、当然の権利を主張するようながあった。
「来週の術、付き添ってくれるよな」
私はすぐには答えなかった。
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テーブルののグラスを見つめる。
そして、再び啓介の顔を見た。
族なら、来て当たり。
自分が術を受ける側なら、妻が隣にいて当たり。
彼は、そんな顔をしていた。
私の返事を疑うことすらしない目だった。
テレビのスピーカーから、るい声が流れてきた。
気予報のコーナーだった。
女性のアナウンサーが笑顔で語りかけている。
はれ。
確率10パーセント。
おかけになるでしょう。
そんな声が、部の空気をすり抜けていく。
啓介が眉をひそめた。
私の沈黙に苛ったようだった。
「聞いてる?」
彼はし声を荒げた。
私は黙ったまま、啓介を見ていた。
瞬きつしなかった。
「おい、術なんだぞ」
彼はリモコンをソファーに投げした。
「全麻酔なんだぞ」
私はそれでも答えなかった。
族。
その言葉が、私のの奥からあのの記憶を力ずくで引っ張りした。
病院のい井。
術に続く廊の、たい蛍灯の。
麻酔が効いてくるの、震えるようなたい空気。
隣で私のをく握ってくれた、母の指の温もり。
そして。
来なかった夫。
あののことは、今もはっきりと覚えている。
決して忘れることのできない、たい記憶だった。
異変をじたのは、の終わりのことだった。
たいが吹き始めた頃だ。
私は1で入浴していた。
お湯をすくい、体を洗っているだった。
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の胸に、指先が触れた。
違があった。
さな、しこりがあったのだ。
指の腹でなぞってみる。
かった。
押しても、かない。
にはなかったものだった。
私は息を止めた。
胸の奥がざわつくのをじた。
お湯の温かさが、急にじられなくなった。
翌朝、目が覚めた。
布団ので、もう1度胸に触れてみた。
しこりはまだそこにあった。
消えてはいなかった。
気のせいではなかった。
私はそののうちに、所の婦科を受診した。
診察のパイプ子に座る。
たいジェルを塗られ、超音波の械が胸を滑る。
先がエコーの画面を見つめている。
部のには、械のさな子音だけが響いていた。
先のが止まった。
しを置いた。
そして、私の方を向いて言った。
「のため、きな病院で診てもらいましょう」
私はさく頷いた。
喉がカラカラに乾いていた。
その「のため」という言葉が、ずっとに張り付いてれなかった。
紹介状を握りしめ、私は学病院へ向かった。
広い待で自分の番号が呼ばれるのを待つ。
マンモグラフィーの検査を受けた。
その、太い針を刺す検を受けた。
痛みが引いたも、恐怖だけが残った。
結果がるまでの1週。
何をしても落ち着かなかった。
スーパーで野菜を選んでいるも。
優馬と公園で遊んでいるも。
胸のしこりのことが、から消えなかった。
啓介には、検査をしているとだけ言った。
夕の席だった。