"乳がん手術日にゴルフへ行った夫の末路" 第11話
「卵べたい」
私はバックミラー越しにその顔を見た。
「卵焼きにしよっか」
「うん」
しだけ笑った声だった。
に着いてから、私は優馬をソファーに座らせた。
額のテープがずれていないかを見て、を洗わせてうがいをさせる。
それから蔵庫をいた。
卵が4つ残っていた。
噌汁は朝の残りがあった。
豆腐も半分ある。
それで分だった。
ボウルに卵を割る。
砂糖をしだけめに入れる。
優馬は甘い卵焼きが好きだ。
フライパンに油を引いて、じゅっと音がした。
背の方で、優馬がミニカーをにらせている音がする。
いつもと同じような音だった。
でも今は、そのさな音が途切れるたびに、私を振り返らせてしまった。
をぶつけた衝撃で、から具が悪くなることもある。
医師はそう言っていた。
『今夜吐いたり、ぼんやりしたり、眠り方がおかしかったらすぐに連れてきてください』と。
その言葉が、の端かられなかった。
私は度だけスマートフォンを見た。
通は増えていなかった。
やっぱり何も来ない。
「あ、もう待たなくていいんだ」
その、った。
このに分かってもらおうとしなくていい。
察して欲しいとわなくていい。
必なに必な言葉が来るかもしれないと、期待しなくていい。
そうったら、しだけ楽になった。
同じくらい、寂しかった。
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「優馬、お茶む?」
「む」
コップにしだけ麦茶を入れて渡す。
優馬は両で持って、だけんだ。
「卵まだ?」
「もうすぐ」
なるべくいつも通りの声で答えた。
卵焼きを皿に移して、噌汁を温め直す。
スマートフォンはキッチンの端に伏せたままだった。
1度も鳴っていないことを、画面を見なくても分かっていた。
それでも、が止まるたびに線が向いた。
やっぱり何も来ていない。
期待していたわけじゃない。
そうおうとしても、こうして何度も確認してしまう点で、またどこかで待っていたのだとわかる。
その自分がしだけ憎かった。
「できたよ。べよっか」
「うん」
子に座らせて、卵焼きをに置く。
優馬は額のテープを気にするように眉をしかめた、さくをけた。
「美しい」
した顔だった。
3歳の子供が、甘い卵焼き1つでほっとしている。
その顔を見ていると、胸の奥がゆっくり痛くなった。
本当なら、今は2で病院にくじゃなかった。
怪なんてしないで、いつものように保育園から帰ってきて、夕飯をべて眠るだけの夜で良かった。
でもそうはならなかった。
それでも私は、なんとかこの夜を普通に見せようとしている。
誰のためなのか、自分でも分からなかった。
お呂は今はやめた。
額のテープを濡らしたくなかったし、私ももうそこまで気力がなかった。
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蒸しタオルで顔と首を拭いて、着替えだけさせる。
そのも、優馬は々ぼんやり私を見ていた。
「気持ち悪くない?」
「丈夫」
「痛い?」
「ちょっとだけ」
「そっか」
布団に入れて、絵本を1冊読む。
今はいつもより、めくるが遅かった。
読み終わる頃には、優馬の目は半分閉じていた。
「ママ」
「何?」
「ありがとう」
瞬、言葉がなかった。
「どういたしまして」
3歳の子供に、ありがとうと言わせる夜にしたかったわけじゃない。
もっと普通でよかった。
誰かが緒に病院へってくれて、帰ってからも丈夫だったかと聞いてくれる。
そんな夜でよかった。
でも、そうはならなかった。
夜9を過ぎて、ようやく玄関のドアがいた。
ネクタイを緩めながら入ってきた啓介は、急いで帰ってきたの顔をしていなかった。
いつも通りだった。
「ただいま」
「おかえり」
啓介はそのままキッチンへ向かい、蔵庫から麦茶をした。
コップに注いでんでから、ようやくこちらを見た。
「優馬、どうだった?」
私はしだけを置いた。
「もう寝たよ」
「ああ、そっか」
ソファーに座って、スマートフォンを取りす。
を組んでいつもの体勢になった。
しの沈黙の、啓介が言った。
「したことなくてよかったじゃん」
それだけだった。
今1のことが、ので気に逆流した。
保育園からの話。
って迎えにったこと。
病院の待で私の腕にしがみついていた優馬。
処置の、唇を噛んで泣くのを耐えていたさな顔。