"ドアの黄色の付箋" 第9話
テーブルには私のクレジットカードで注文された級寿司の桶とフレンチのオードブルが並び、修が奮発したという額な赤ワインがグラスに注がれている。
「いやあ、修くんも変だな。まさか理さんがそんな状態になるなんて……」
叔父のひとりが々しく頷きながら、刺をに運ぶ。 その隣で、義母の美代子がハンカチで目元を押さえ、涙ぐむ演技をしてみせた。
「そうなのよ……。私、毎のように配して通っていたの。ドアに『留守でした』って何度も付箋を貼ってね。でも理さん、にいるのに鍵を閉めきっててきてくれなくて……。本当に、が折れそうだったわ」
「おふくろ、泣かないでくれ。みんな、今は忙しい集まってくれてありがとう」
修がしんみりとした声で静かにちがった。 その顔には、劇のヒロインを支える「健気で献な夫」の完璧な仮面が張り付いている。
私はリビングの隅にある掛けのソファに、浅く腰掛けていた。 メイクで顔をし青く見せ、線を落とし、力なく膝のでをねている。見た目は完全に「ともに衰し、現実を受け入れられないれな妻」そのものだった。
「理、丈夫か? 気分が悪かったら言ってくれよ」
修がわざとらしく私の肩にを置き、親族たちに向き直った。
「実はみんなに相談があるんだ。
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理の症状は、もう自宅でられる限界を超えている。今、こうして親族のみんなに集まってもらったのは、理を専のメンタルクリニックへ期入院させる同と、今の活費……このマンションの売却続きについて、族としての承認をもらいたいからなんだ」
修は元のクリアファイルから、何枚かの類を取りした。
「これが理の診断(もちろん偽造だ)と、見制度の申請類だ。理にはもう、この広いを管理する能力も、正常な判断能力もない。俺が見となってこのを売り、理の入院費に充てようとう」
親族たちは顔を見わせ、頷きった。
「うむ……修くんがそこまで苦労しているなら、それが番だな」 「そうよ、理さんも専の病院に入った方が幸せだわ。理さん、修くんの言う通りにしなさい?」
親族たちの同な線が、斉に私に注がれる。 美代子は品な笑みを隠すようにハンカチを元に当て、修は勝利を確信した目で私を見ろしていた。
類とペンが、私ののテーブルに置かれる。
「さあ、理。みんなも賛成してくれている。ここにサインをして、印鑑を押すんだ。これで全部、楽になるからね」
修の声は、どこまでも優しく、どこまでも酷だった。
腕計を見る。 午分。
約束の刻まで、あと分。
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私はゆっくりと顔をげた。 それまで浮かべていた「虚ろな表」を、スッと消しる。
代わりに、元に静かで、氷のようにたい笑みを浮かべた。
「……理?」
修が眉をひそめる。
私は迷いのない作でちがった。背筋を真っ直ぐに伸ばし、震えていたはずのでテーブルののペンをに取ると、そのままカチリと音をてて胸ポケットに仕った。
「皆さん、本は私のために集まっていただき、本当にありがとうございます」
私の通る声が、静まり返ったリビングに響き渡る。 衰していたはずの嫁の、あまりにもはっきりとした調に、親族たちが息をのんだ。
「何言ってるんだ、理。君は病気なんだから、座って——」
修が焦って私の腕を掴もうとしたが、私はそれをややかに振り払った。
「修、お義母さん。せっかく親族の皆さんが揃ったのですから、私の『病状』についてで説するより、もっと分かりやすいものをお見せしようといます」
「な……何を言ってるのよ、この子は!」
美代子がヒステリックに声をげる。
私はあらかじめ接続しておいた65インチの型テレビの遥控器(リモコン)をに取り、スイッチを入れた。
「私と修、そしてお義母さんが過ごした、このヶの『族のい』です。どうぞ、お召しがりください」
決定ボタンを押した瞬。
暗転した画面に、画質なフルHD映像が映しされた。
そこに映っていたのは——
自分の鍵で静かに玄関をけ、チャイムも鳴らさずに侵入し、私のサプリメントのケースにいくすり潰した末をニヤニヤしながら混入させる、義母・美代子の鮮な姿だった。