"十三足目の黒い靴" 第4話
私は差しされたカップを受け取り、と緒に薬をに含んだ。 宗郎が満そうに目を細め、方を向いてエンジンをかけた瞬——私は舌の裏に薬を押し込み、み込んだふりをして喉を鳴らした。
が滑りす。
私はシートにく背を預け、窓を流れる京の並みをぼんやりと見つめた。 のの薬の苦が、じわじわと舌を痺れさせていく。
宗郎は私が「精神を病み、夜に徘徊するれな妻」という物語を完璧に完成させたつもりでいる。 だが、彼には見えていない。
私が先ほど、診察をる際に、医師のデスクのにあった「処方箋の控え」の名称を、鋭い記憶力で脳裏に焼き付けたことを。
そして、彼が完璧だと信じ込んでいるその支配の網目に、微かな綻びがじ始めていることを。
で舌の裏に隠した粒の丸薬は、自宅の洗面所で静かに吐き捨てた。
「美咲、薬の効き目でし眠くなるかもしれない。無理をせず横になりなさい」
宗郎は私をベッドまで送ると、おしそうに私の髪を撫で、再び会社へと向かった。玄関のロックがカチャリと閉まる音。それが彼がかけた図であり、同に私が「正気」を取り戻す唯のだった。
午過ぎ。苦しい静寂が広がる廊に、ピンポーンとインターホンの子音が響いた。
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私は息を殺し、モニターを確認した。画面に映っていたのは、緑の制を着た宅配業者の男性だった。
「ごめんください、配達です。桐院様のお宅でしょうか」
私はインターホン越しに応答した。
「……はい、桐院です。玄関のに置いていただけますか?」
「あ、桐院宗郎様宛の指定便なんです。『ご本様受取指定』かつ『サイン』となっておりまして……ご宅でしたらお受け取りいただけますか?」
宗郎宛ての本受取限定の荷物。 いつもなら、彼のプライベートな領域に踏み込むことを禁じられていた私は、断って再配達を依頼していただろう。だが、今の私を突きかしていたのは、激しい恐怖とそれを回る徹な疑だった。
「分かりました。今けます」
ドアをけ、印鑑を差しす。受け取ったのは、片で持てる程度の、縦い振りな段ボール箱だった。品名欄には『精密加品』とだけ記され、差欄には青にあるオーダーメイド靴専のの名称が印字されていた。
(靴……)
背筋にやし油を流されたようながる。 私はハサミを取りし、宗郎が戻るに、く梱包テープを切り裂いた。
箱の隙から漂ってきたのは、質な革の匂いと、微かな接着剤の匂い。 緩衝材を取り払うと、そこから現れたのは——あの靴だった。
黒い革、平底、つま先の微妙なカッティング。
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靴箱の最段に並べられていた12と、完全に致するデザインのシューズ。
目。
「……やっぱり」
袋をはめたで、その靴を持ちげた。品のはずだった。だが、議なことに、の靴底——その踏まずの窪みの部分だけに、湿り気のある赤い粘質のが、ごく微量だけ付着していた。
品の靴に、なぜがついているのか。 箱の底に落ちていた枚の納品を取りす。そこには、宗郎の跡で記された注文指示メモのコピーが添えられていた。
『指示通り、ソール裏面に指定の(青A区採取品)を微量付着の、発送すること。梱包に損傷なきよう注』
ので、カチリと音をててパズルのピースが組みわさった。
宗郎は、私がらないに青へき、自分で靴を買っていたのではない。 彼はこのに特注し、最初から「青の赤がついた靴」を定期に自宅へ配送させていたのだ。
12の靴は、私が夜に徘徊して汚したものではない。 宗郎が「私が徘徊した証」として、ずつ順番に靴箱の奥へ補充していた“具”だったのだ。
「1ヶに……」
納品の दैट(付)を遡ると、過にわたり、毎第曜に同じ品名で注文が繰り返されていた。
宗郎はから、この周到な準備をめていた。 私が本当に精神を病み、夜にどこかへ徘徊しているとい込ませるために。
私が自分自の記憶と正気を疑い、完全に彼へ依するように仕向けるために。