"十三足目の黒い靴" 第5話
その、玄関のスマートロックが「ウィーン」と械音をてて解錠された。
「……!?」
臓がねがった。宗郎が帰ってきたのだ。 私は咄嗟に段ボール箱のフタを閉じ、靴箱の脇にある掃除用具入れの奥へと押し込んだ。
「美咲? 体調はどうだい?」
廊に、宗郎の音が響く。彼のに握られているスマホの画面には、玄関のスマートカメラの通が表示されていた。
「宅配便が届いただろう。僕宛ての荷物だ。受け取ってくれたかい?」
宗郎は穏やかな笑みをたたえて廊の角を曲がってきた。その瞳は、私の元、そして廊の空気を油断なくスキャンしていた。
「ええ……さっき届いたから、あなたの斎のドアのに置いておいたわ」
私は指先の震えを隠すため、エプロンのポケットので固く拳を握りしめた。
「そうか。ありがとう」
宗郎は満そうに微笑み、私の頬にを伸ばした。
「薬は効いたかい? 顔がし良くなっているようだ。……でも、無理をしての(宅配員)と話す必はないんだよ。君の混乱した状態を見たら、周りのも配するからね」
「……ええ。気をつけるわ」
宗郎が斎へ向かって歩きす背を、私はや汗を流しながら見つめた。
彼が斎のドアをけ、に置かれた(私が適当な類箱でダミーを作った)荷物を確認するまでの、わずかな。
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私は悟った。 この全体が、私を閉じ込めるための巨な檻であり、宗郎はその完璧な飼育員なのだと。
だが、彼は致命なミスを犯した。 13目の靴を、私に先に見られたこと。
そして今夜、宗郎が油断して眠りについた——私は初めて、彼の聖域である「斎の鍵」を破る決を固めた。
午。閑としたリビングに、壁計の規則な秒針の音だけが響いていた。
私は寝のベッドので、息を潜めてを澄ませていた。隣のベッドからは、宗郎の規則正しい寝息が聞こえてくる。
昼、私は彼から渡された粒の薬を薬したふりをして吐き捨てた。もし指示通りにんでいれば、今頃はい鎮静作用によって、識をいへと落とされていたはずだ。
ゆっくりと布団をげ、裸でにをろす。たいフローリングの触が、覚した神経を鋭く研ぎ澄ませていく。
ターゲットは、廊の突き当たりにある宗郎の斎だった。
その部は、結婚当初から「類を保管しているから」という理由で、宗郎が常に鍵をかけて管理している聖域だった。だが、私はっていた。宗郎が毎晩お呂に入る際、脱所の棚のに置くキーケースのに、あの部のさな真鍮製の鍵が入っていることを。
音をてないよう静かに廊をみ、鍵穴に鍵を差し込む。
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カチリ。
静寂のに響いたさな属音に臓がねがった。振り返るが、廊の暗にはない。ドアをわずかにけ、すべり込むように内へ入ると、すぐに内側から鍵を閉めた。
遮カーテンが引かれた斎は、完全な暗だった。私はスマホの画面の度を最限にげ、懐灯代わりにデスクを照らした。
然と並べられた籍、完璧に理された文具。宗郎の異常なまでの几帳面さが滲みる部ので、私はデスクの最段にある引きしに向かった。
そこにはなダイヤル式の京錠がかけられていた。
(番号は……何?)
宗郎の、私の、結婚記——ので候補を巡らせる。だが、宗郎のような男が、そんな易な数字を使うはずがない。
ふと、昼に見た13目の靴の納品がをよぎった。
『毎第曜』
私はダイヤルを回した。彼が「妻の徘徊記録」をつけ始めた最初の付——の。
「0-9-0-1」
カチャリと音をてて、京錠がれた。
息をのむ。引きしをゆっくりと引くと、そこには冊の黒いレザーのファイルと、何枚もの類が格納されていた。
ファイルをくと、1ページ目からびっしりと敷き詰められた宗郎の文字がび込んできた。
『最寺美咲・管理および精神状態観察ログ』
帳にかれていたのは、単なる徘徊の記録ではなかった。
そこには、私がどのようにして「病」へと作り替えられていったのか、その恐ろしいプロセスのすべてが克に記録されていた。