"沈黙のピアニストは厨房に潜む" 第6話
グラスを傾けながら、梅田がふと線を巡らせ、いつもの特等席に置かれたグランドピアノへと目を留めた。
「このは、料理はもちろん、ピアノの演奏が素らしくてね。今も期待しているんだよ」
梅田のその何気ない言に、仕をしていた岡本の背筋がビクリと張った。
「あ、ありがとうございます……」
引きつった笑顔でそのを取り繕う岡本。 けれど、そのの内では、破滅へのカウントダウンが刻刻と迫っているのをじずにはいられなかった。
梅田のテーブルから逃げるようにバックヤードへがった岡本は、消え入りそうな震える声でをいた。
「み、宮さん……もうがありません! 何か適当な音源をスピーカーから流すしかないといます!」
誤魔化し続けるプレッシャーに耐えきれなくなった岡本は、必の形相で訴えた。
「お客様には、材トラブルということで丁にお詫びするしか……!」
その言葉に、周囲のスタッフたちも苦しい沈黙ので、さく頷きかけていた。 これ以奇跡を信じて代役を探し続けても無駄だ――そんな諦めの空気が、フロア全体をたく覆い尽くそうとしていた。
けれど、宮だけは違った。
「このの板は演奏だ! それを適当なBGMで誤魔化すなんて、俺には絶対にできない!」
吐き捨てるような声には、現責任者としての凄まじいが滲んでいた。
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サービスマネージャーとしてこのを任されている以、妥協など許されない。 何より、総支配の柳原がかけて築きげてきたの信用を、自分の代で傷つけるわけにはいかないのだ。 それは単なる見栄ではなく、自分を拾いげ、信頼してを任せてくれた柳原に対する、彼なりの器用でい忠誠だった。
「ですが宮さん、に方法が……!」
川が疲れ切った声で説得しようとした、まさにその。 宮は再びスマートフォンをく握りしめ、画面を擦るようにして履歴を探し始めた。
「まだだ……まだ諦めるな! 隣のホテルのラウンジに片っ端から当たれ! 個で活している奏者にも、もう度連絡を入れろ!」
宮の額には玉のような汗が浮かび、焦燥に駆られた瞳は血っていた。 その鬼気迫る姿に、スタッフたちは言葉をみ込み、再びスマートフォンをに当てるしかなかった。
しかし、無にも返ってくる結果はすべて同じだった。
「駄目です……今夜はどこも塞がっています」 「話にすらてもらえません……」
絶望な報告がなるたび、宮の顔からみるみるうちに血の気が引いていく。 誰もが俯き、ただい静寂だけがり積もる。 壁の計の針は容赦なくみ、演奏始予定の刻をすでに回ろうとしていた。
方塞がりの絶望がフロアを支配する――ヘッドサービスの川だけは、静かに別の能性を巡らせていた。
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彼の脳裏に焼き付いてれなかったのは、先ほどのの姿だった。
――私なら、できるかもしれません。
あの震えるような、けれど芯の通った言は、決してそののいつきや任せなどではなかった。 い返せば、宮にたく蹴されたの彼女の瞳には、分を弁えないの軽さなど微もしなかった。 むしろ、いの底に隠していた切な宝物を、決の覚悟で差ししたような、痛々しいまでの真剣さが宿っていたのだ。
ちょうどその、梅田のテーブルから、じれったそうな声がフロアに漏れ聞こえてきた。
「おかしいな……もう随分経つが、まだ演奏が始まらないじゃないか」
隣に座る取引先へ、梅田が眉をひそめて漏らした言。 それを皮切りに、のテーブルからもさなざわめきと審な線が広がり始めていた。 それは、川や宮のにも確実に届いていた。
猶予は、もう分たりとも残されていない。 川は、このを救うためにはもはや体裁や例にこだわっている余裕はないと、腹を括った。
「宮さん……さんに、頼んでみませんか?」
緊迫した空気を切り裂いて響いた川の提案に、宮は信じられないものを見るように眉をねげた。
「……さっきの話か!? 馬鹿を言うな! 彼女はただの皿洗いだぞ!」
「ですが、にてがつもないのも事実です!」