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"沈黙のピアニストは厨房に潜む" 第10話

はフロアの隅から、その景をただ呆然と見つめることしかできなかった。 空を優しく満たしていく極の音楽と、それに呼応して完璧に能するスタッフたちのサービス。 つが織りなす至の空に、先ほどまでの困惑は、やがて激しい羞恥と自己嫌悪へと変わっていった。

皿洗いだと見し、酷に切り捨てた彼女。 その彼女が今まさに、その圧倒な実力で、自分と、こののすべてを救ってくれているのだ。

――皿洗いがしゃ張るな。

己が吐き捨てた傲な言葉が、鋭い棘となって己の胸に突き刺さる。 彼に残されたのは、己の浅ましさをる、悔だけだった。

まさにその。 エントランスのな扉が、勢いよくかれた。

息を切らし、肩をさせて駆け込んできたのは、総支配の柳原だった。 先での危り、な会を途で切りげて、血相を変えて戻ってきたのである。

最悪の事態――演奏に穴がき、客の号がび交う景を覚悟していた柳原は、フロアにを踏み入れた瞬、ピタリとを止めた。

び込んできたのは、スタッフの謝罪の声でも、スピーカーから流れる無質な録音音源でもなかった。 静寂のに確かなを帯びた豊かな音と、夜空に散るのように儚く煌めく音の響き。

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かつて、音楽プロデューサーとして第線で活躍していた彼の魂を、根底から激しく揺さぶるような、あまりにも美しく切ない旋律だった。

柳原は目をきく見き、グランドピアノのに座る漆黒のドレスのろ姿に釘付けになった。

(……まさか、そんなはずはない)

では否定しようとしても、音楽をする彼の本能が、それを真実だと告げていた。 かつて自分がどうしても目をすことができず、その才能に惚れ込み、いつか正式にプロデュースしたいと願っていた矢先に、忽然と音楽界から姿を消してしまった若き才奏者。

その奇跡の音が今、自分ので、再び息を吹き返していたのである。 込みげるを抑えきれないまま、柳原は吸い寄せられるように、ゆっくりとフロアの奥へと歩みをめていった。

柳原が歩み寄るの紡ぐ旋律もまた、静かな終わりを迎えようとしていた。

音が慈しむように奏でられ、い余韻を残した豊かな音が、夜の空気のへとふわりと溶けていく。 鍵盤からゆっくりと両したは、さく息を吐きした。

ぶりに、曲を弾き切った。 その背には、よい疲労と、言葉にならない堵が広がっていた。

数秒、フロアには魔法にかかったような完全な静寂が訪れた。

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それを破ったのは、ピアノのすぐそばまで歩み寄っていた柳原の、静かで力い拍だった。

パン、パン、パン――。

その確かな音が図となったかのように、客席の奥からも涛のような拍が湧き起こり、瞬くにフロア全体を包み込む万采へと変わっていった。

「す、すごい……」 ホールスタッフの岡本が、震える声で嘆を漏らした。

誰よりも先に苛ちをわにしていた鎮の梅田もまた、シャンパングラスを置くと自らがり、惜しみない拍を送っていた。 「素らしい……! 今まで聴いたどの演奏よりもに染み入る、最だったよ。さすがは柳原君のだ!」

先ほどまで彼女を侮辱していた宮は、圧倒な拍の波ので、ただ言葉を失ってち尽くすことしかできなかった。 自分たちが切り捨てようとしていた皿洗いの女性が、今、フロアの賞賛をに浴びる気いピアニストへと変貌を遂げていたのだ。

鳴り止まない拍が静かにピアノベンチからがった。

「素らしい演奏だった。……本当に、奇跡のようなだったよ」

柳原の、くよく通る声が響いた。 驚いて振り返るに対し、支配極まったような温かい差しを向けていた。

「や、柳原支配……! 彼女は、体……」

状況をみ込めず、呆然とち尽くす宮が掠れた声で尋ねた。

たちスタッフの困惑を制するように、柳原はゆっくりと首を横に振った。

「宮君たちが驚くのも無理はない。

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