"母の尊厳を踏む家なら捨てます" 第6話
隆司が呆気に取られたように目を見いた。
「この結婚、度に戻します」
静まり返った内に、栞の声が澄んで響いた。
「……? お、正気か!?」 隆司がちがった。子がろに引かれ、を擦る嫌な音がした。 「式まであと週だぞ! 案内状だって全部配り終わってるんだ! 会社の部も役員も来るんだぞ! それを、たかが印鑑つ持ちしたくらいで……!」
「たかが印鑑つじゃない」 栞は歩ずさり、との距を取った。 「のものを無断で奪うこと。自分の見栄のために、平気で嘘をつくこと。そして、私の母親や私のを、に見ること。そのすべてが、私には耐えられません」
「栞さん!」 敏恵が元を歪め、たい嘲笑を浮かべた。 「悔しますよ。にもなって、度決まった結婚を破談にするなんて、世がどう見るか分かっていて? 傷がつくのはあなたの方なのよ。父親もいない、した学歴もない、の保育士。隆司のような派な会社員に拾ってもらえるだけで、ありがたいとわなければいけないなのに」
「拾ってもらう必はありません」 栞は敏恵の目をまっすぐに見つめ返した。 「私は、自分のでってきています。母がで、汗流して私をそう育ててくれました。あなたのに見される筋いは、何つありません」
「お、本当に戻りできなくなるぞ!」
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隆司が栞の腕を掴もうとを伸ばした。
だが、栞がややかにそのを払い落とすと、隆司は周囲の客の線に気づいて、びくっとを引っ込めた。 どこまでも、世体との目ばかりを気にする男だった。
「失礼します」
栞はく礼し、踵を返した。 背から「栞! 待てよ!」「放っておきなさい、どうせ謝って戻ってくるに決まってます!」というの声が追いかけてきたが、度も振り返らなかった。
をると、のたいが頬を打った。 がすくみそうになるのを、奥歯を噛みしめて堪えた。
アパートへ戻る、栞はスマートフォンの契約を確認し、翌朝番で休暇を申請した。 まだやるべきことはのようにあった。
翌朝、曜。 午ちょうどに、栞は方の窓にいた。 通帳と分証を提示し、印鑑の変更続きを済ませる。さらに、定期預の途解約を防止するためのセキュリティロックをかけ、代理カードの発や委任状による引きしを切受け付けないよう、厳に登録を更した。
「これで、ご本様以の窓でのお続きは完全に能となります」 窓の女性員の丁寧な言葉に、栞はくをげた。
をたそので、野の産仲介会社へ向かった。 居として契約したマンションの件だった。
担当の営業マンは、栞の顔を見るなり、ひどく気まずそうな表を浮かべた。
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「あ、森様……ちょうどこちらからご連絡を差しげようとっていたところでした」
「何かありましたか?」
営業マンは元の類を指先でえながら、言いにくそうにをいた。 「実は、昨のお昼過ぎに、相澤様のお母様を名乗る方からお話がございまして……契約者の名義を、相澤隆司様単独から、お母様の名義に変更できないかというご相談をいただいたんです」
栞の背に、や汗が流れた。 「名義変更……ですか?」
「はい。それと、同居としての森様のお名を旦し、森様には『連帯保証』の欄へ回っていただく形に類をき換えたいと。初期費用の折半分については、相澤側で全額支払ったことにしたいので、領収の宛名を変更して再発してほしいというご望でした」
営業マンは困惑したように眉をげた。 「もちろん、ご本様の承諾がない限り、そのような方な変更はお受けできないとお断りしたのですが……お母様がひどく語気を荒らげられまして」
栞の胸の奥で、カチリと何かが凍りついた。
あのたちは、最初から栞を対等な族として迎える気など毛なかったのだ。 居の賃の支払いや連帯保証としての責任だけを負わせ、部の権利も主導権もすべて相澤で囲い込む。 もしあのまま何もらずに入籍していたら、自分は法にも経済にも逃げのない檻のに閉じ込められていた。