"3年の介護と兄のタワマン頭金" 第1話
「麻子、トランクの荷物、先に仏壇の部へ運んどいてちょうだい。病院の匂いが染みついてる気がして、落ち着かないのよ」
リハビリ病院の自ドアをた瞬、母の敏子は度も振り返らずにそう言った。
の付け根を骨折してヶ。ボルトで固定された関節はまだ完全に馴染んでおらず、歩器をへ押しすたびにアスファルトの継ぎ目でカタカタと乾いた属音が響く。島駅からしれたこの病院へ、私は週に、会社の定に軽自をらせて通い詰めた。
洗濯物を取り替え、医師の回診メモをノートに控え、指定された反発のクッションを買いにる。そのヶのに、京にいる兄の健から届いた連絡は、族LINEに貼られたスタンプつと、 『母さん退院決まったんだって? 仕事が落ち着いたら顔すよ』 という、句読点のないいメッセージだけだった。
「ほら、く回して。がたいじゃないの」
「今トランク閉めたから。元、縁あるから気をつけてね」
私は母の肘を支え、軽自の助席に慎に座らせた。シートベルトを引いて留めを差し込むと、母はバッグからスマートフォンを取りし、画面を慣れたつきでタップした。
「健に連絡しとかなきゃね。『無事に退院できたから配しないで』って。
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あの子、先週もきな商談が入ってるって言ってたから、気が気じゃなかったのよ」
「兄さん、先週もそのも話本よこしてないけど」
を駐からしながら私が淡々と言うと、母は眉の端を吊りげて私を見た。
「健は京の線で働いてるの。麻子みたいに、定で終わる元の事務員とは背負ってる責任が違うのよ。あの子が気を揉んだら、事な仕事に差し支えるでしょうが」
聞き飽きた言葉だった。父が筋梗塞で急したから、もっと言えば私が物ついた頃から、このでの序列は度も揺らいだことがない。
男の健は「できな仕事をする跡取り」。 女の私は「の元に置いて雑用をさせる娘」。
実まではで分ほどの距だった。築の造階建て。父がに頼んで建てた頑丈さだけが取り柄の本で、庭には父が入れしていた槙のと、放置されて荒れ放題になったツツジの植え込みが広がっている。
見通しの悪いを曲がり、敷の入りにを乗り入れようとした瞬、見慣れない景にがブレーキを踏み込んでいた。
「……何、あれ」
母が助席からを乗りした。
庭の真んに、見らぬ濃紺のスーツを着た男がっていた。は巻き尺の端を槙のの根元に当て、もうはクリップボードに挟んだ図面に何かをき込んでいる。
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庭の脇には、黄い脚に据え付けられた測量器のようなものが置かれていた。
「ちょっと、麻子、誰なのあのたち。棒じゃないでしょうね」
「棒が昼からスーツ着て測量なんかしないよ。待ってて、私が見てくるから」
ハザードランプを点けたまま運転席をり、砂利を踏んで男たちへづいた。スーツの胸元には、産仲介チェーンの丸い社章がっていた。
「あの、すみません。ここで何をされているんですか」
声をかけると、図面を持っていた代半ばほどの男が、慌てて鏡を直しながらこちらに向き直った。
「あ、失礼いたしました。望様のお宅でいらっしゃいますね? 私、都リアルティの佐々と申します。健様から、事調査のち入りの件でご連絡は届いておりませんでしょうか」
男は名刺入れから丁寧に取りした名刺を両で差ししてきた。 私のので、いくつかの言葉が結びつかずに散乱した。
「……健? 兄からですか?」
「ええ。こちらの建物の査定評価および、隣境界の簡易測量の件で伺っております。健様からは『平の昼なら母は入院で留守にしているから、回りだけなら自由に見ていい』と伺っていたのですが……もしかして、ご退院がまられたのですか?」
佐々と名乗った男は、申し訳なさそうに、しかし極めて慣れた様子でそう言った。