"3年の介護と兄のタワマン頭金" 第11話
『叔母さん……敏子叔母さんな、今、京の健のにってるらしいぞ』
受話器を握るにし力が入った。
「……そうなの?」
『ああ。麻子ちゃんが実をたって聞いて、叔母さんが親戚に話して騒ぎしただろ。『娘に見捨てられた』って。見かねた健が、先週の曜に幹線で迎えに来て、連れてったんだよ。実の荷物もそのままにな。親戚連はみんな『やっぱり健は頼りになる』『麻子はたい』って叩いてるけど……俺は麻子ちゃんがで抱え込んできたのってるからさ。丈夫か?』
「うん、私は丈夫。配してくれてありがとう」
『でもな……なんか健のところ、きが怪しいぞ。昨、うちの親父のところに叔母さんから話があったらしいんだけど、声がガラガラでさ。『こんなはずじゃなかった』って泣いてたらしい』
正の言葉に、私は驚きもしなかった。 健のむ練馬のマンションは、築の2LDK、専面積は平米にも満たない。そこに健と妻の恵理、そして来学にがる歳の男の子が暮らしている。
そこに、が自由で歩器が必な歳の義母が転がり込む。 何が起きるかなど、を見るよりらかだった。
の半ば、事態は急速にき始めた。
平の午、会社の固定話が鳴った。内線を取ると、総務の同僚が困惑した声で言った。
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「望さん、ご族の方からお話です。『緊急の用件だから今すぐ代われ』って、かなりい調の男性で……」
胸騒ぎがしながら受話器を受け取った。
「お話代わりました、望です」
『麻子! お、携帯ろよ! 何回かけても留守になりやがって!』
健の号だった。息が荒く、背からはの通過音と、駅の構内アナウンスが混ざりって聞こえていた。
「仕事だよ。会社の話に私用でかけてこないで」
『仕事どころじゃねえんだよ! 今すぐ島駅まで来い! 駅の喫茶にいる!』
「けるわけないでしょ、定は半――」
『来ないと会社のに乗り込むぞ! おの総務のデスクまでって、妹が親を放りして実の遺産を横取りしようとしてるって全部ぶちまけてやるからな!』
受話器の向こうから放たれた言葉は、もはや理性を失ったの脅迫そのものだった。
私はく息を吸い、計を見た。 分。
「……島駅の、ルノアールにいて。分でくから。会社には絶対に来ないで」
私は司に「内の急用でだけ抜けさせてほしい」とをげ、私用のスマートフォンと鞄を持って会社をた。
の午の差しが、駅ロータリーのを黄く染めていた。
駅の喫茶の奥まった席に、健は座っていた。 その姿を見て、私は息を呑んだ。
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先実で会ったの、仕てのいいジャケットを着てパリッとしていた面はどこにもなかった。ネクタイは曲がり、ワイシャツの襟元は黄ばみ、目のには黒々とした隈が張り付いていた。テーブルのにはアイスコーヒーのグラスがつ置かれ、皿には吸い殻が盛りに押し込まれていた。
そして、その隣のボックス席に、さく丸まって座っているがあった。
母だった。
なカーディガンを羽織り、膝のにボストンバッグを抱きかかえるようにして座っている。実にいた頃の、あの尊な態度はどこへったのか、母は怯えたような目で線を宙に泳がせていた。
私が席にづくと、健がガタッと音をててちがった。
「遅いんだよ! 何分待たせる気だ!」
内の数の客がこちらを振り返った。私は健を無して、母の向かい側の席に腰をろした。
「……お母さん、どうしたの。京にいたんじゃないの」
母は私の顔を見ると、唇を微かに震わせた。だが、健が鋭い線を投げかけると、ビクッと肩を竦めてを噤んだ。
健がドスンと私の正面に座り直した。元から、しわくちゃになった茶封筒を取りし、テーブルのに叩きつける。
「麻子、もうのの言ってるはねえんだよ。これに今すぐ実印を押せ。印鑑証はに速達で送れ」
封筒からびしたのは、先と同じ『遺産分割協議』だった。 ただし、の付欄が「令〇吉」