"3年の介護と兄のタワマン頭金" 第13話
「実を売る契約を今週に結ぶんでしょ? 更にして引き渡すのに、お母さんはどこにむの?」
健は言葉に詰まった。 そのしのぎの嘘と任せをねすぎて、自分のつじつまが完全に崩壊していることすら気づいていないようだった。
「それは……アパートでも借りりゃいいだろ! 敷くらい俺がしてやる!」
「せるわけないじゃない。タワマンので全額消えるのに」
「麻子、てめえ……!」
健のがテーブルを乗り越え、私の胸元を掴もうと伸びてきた。
私は席をち、歩ろへ引いた。
「兄さん。暴力振るうなら、今すぐ警察呼ぶよ。防犯カメラ、真にあるから」
健のが止まった。喫茶の静かな内で、健の荒い呼吸だけが響いていた。
私は鞄から、冊のいノートを取りした。 父がんでからの、私が母のために支払ってきた医療費、介護タクシー代、の固定資産税、壊れた湯器と漏りの修繕費の領収を几帳面に貼り付け、集計したノートだった。
それを、遺産分割協議のにパタンと置いた。
「これ、見て」
健は怪訝そうに眉をひそめた。
「何だよこれ」
「こので、私が実とお母さんのために自分の料からて替えた費用の細。計で百万円。領収も全部揃ってる」
「は……? 何言ってんだよ」
「お父さんの遺産は、の売却見込み額から解体費用と諸経費を引いて、取りで約千百万円。
広告
法律の私の取り分は分のだから、百万千円。そこから、私が実の維持のためにて替えた百万のうち、法定相続割に応じた兄さんの負担分を乗せして請求する」
私はまっすぐに健の目を見据えた。
「遺産を兄さんが単独で取得してタワマンのにしたいなら、今週の曜までに、私の座に清算として百万円を括で振り込んで。着が確認できたら、司法士の面で実印を押してあげる」
「ろっ……百万!?」
健の声が裏返った。顔から血の気がサーッと引いていくのが分かった。
「払えるわけないだろ! そんながあったら、最初から実のなんかアテにしてねえよ!」
「じゃあ、この話は終わり」
私はノートをに取り、鞄に戻した。
「法定相続分に従って、をの共名義で登記するか、売却代を法律通りに分配する遺産分割調を庭裁判所に申してる。調になれば、半からはの売却は凍結されるから」
「待て! 待てよ麻子!」
健が半狂乱になってテーブルから乗りした。
「曜までに売却契約の確約がせないと、俺の付百万が消えるんだぞ! 違約も発するかもしれないんだ! お、実の兄を破滅させる気か!?」
「破滅を選んだのは兄さん自だよ」
私はややかに言い放った。
広告
「自分の見栄のために、の悪い母親を騙して京へ連れてき、妻にを尽かされ、妹の権利を奪おうとした。全部、兄さんが自分で撒いた種じゃない」
私は母の方を向いた。
母は座席に崩れ落ち、さく震えながら、ただ涙を流して私を見げていた。 その瞳には、かつて私を鳴り散らしていた傲さは微も残っていなかった。自分を裏切った男への恐怖と、捨てったはずの娘へのすがるような懇願が混ざりっていた。
「麻子……お願い、助けて……。私、もうどうしたらいいか分からないのよ……」
母の震えるが、私のコートの裾を掴もうと宙を彷徨った。
私はそのを、静かに見つめた。
母の指先が私のコートの袖に触れる直で、私は半歩ろへがった。
空を切った母のが、力なくテーブルのへ落ちる。
「……麻子?」
母が濡れた目で私を見げた。その顔には、今まで度も向けられたことのない、純粋な狼狽が貼りついていた。
「お願いよ、麻子。悪かったわよ……あんたの悪を言ったのは謝るから。実に戻っておいで? 今まで通り、で暮らしましょう。ね? 夕飯の買いしも、病院のリハビリも、あんたがいてくれないと私、本当にじゃきていけないのよ……」
泣き縋る母の声を、私は静かに聞いていた。 かつてなら、この涙を見た瞬に罪悪が胸を締めつけ、「私がすればいい」