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"4500万の城を奪われた夜" 第16話

それを、宗助の胸元に差しす。

「もう度と、実の敷居は跨ぎません。お父さんが老どうなろうと、私は切関しません。私のから、完全に退してください」

「葵……!」

「今度、私のに現れたり、会社や友に接触しようとしたら、警察にストーカー規制法の適用を求めます。それから、調布役所には民票の閲覧制限の続きを取りました。お父さんであっても、私の現所や戸籍の附票を取得することはできません」

宗助のが震え、差しされた鍵を辛うじて受け取った。 その瞳には、絶望と、自らが招いた孤への恐怖が浮かんでいた。

だが葵の胸には、何の慨も湧かなかった。 しみも、勝利の歓すらない。 ただ、背負わされてきたい荷物を、ようやく本来の持ち主の元に投げ捨てたような、静かな解放だけがあった。

ってください」

葵が告げると、宗助は力なく肩を落とし、取りで玄関をった。 エレベーターの扉が閉まる音が、く廊に響いた。

すべての荷物が運びされ、計の針が午半を指した頃。 402号には、再び静寂が戻っていた。

荒らされた部は、惨憺たる様だった。 壁にはタバコのヤニの黄い染みがつき、無垢材のテーブルには無数の引っかき傷と油染みが残っていた。葵のベッドのマットレスは煙の匂いが染み付き、とてもそのまま使える状態ではなかった。

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佐伯がげた。 「野さん、変でしたね。共用部分の原状回復と清掃は、業者を配します。今回の件は、管理組としても全力を尽くしますので」

「ありがとうございました、佐伯さん。本当に助かりました」

佐伯と警備員が退し、部には葵と麻里のだけが残った。 麻里が窓をけ放つと、澄んだ夜の気が部に流れ込んできた。煙と油の悪臭が、ゆっくりとへ押し流されていく。

「葵、お疲れ様」 麻里が葵の肩にを置いた。 「よく最まで怯まずに言い切ったわね」

「……議ですね」 葵は傷だらけになったテーブルの表面を指先でなぞった。 「あんなに怖かった父の声が、最はただの空威張りにしか聞こえませんでした。私、もっとくこうするべきだったんだといます」

「気づいたが、よ」 麻里は微笑んだ。 「さて、これからどうする? この部、ハウスクリーニングと壁の張り替えが必だけど」

葵はけ放たれた窓から、夜空を見げた。 宿のビル群の灯りが、を照らしている。

「この部、リフォームして賃貸にそうといます」

麻里がし驚いたように眉をげた。「み直さないの?」

「ええ。もうここは、私の『全な』ではなくなってしまいましたから」 葵は穏やかな調で続けた。

はいいから、綺麗に直せばすぐに借りがつきます。

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賃収入でローンを相殺して、私は会社のくの、もっとセキュリティのしっかりした賃貸マンションに引っ越します。産は資産として利用して、自分自活はもっと軽やかに、誰にも縛られない所でやり直します」

それは、ただの逃避ではなく、葵が自らの志で選び取っただった。 の悪や無神経さに汚された所に固執するのではなく、それを徹に資産として割り切り、自分のの主導権を完全に取り戻すための選択。

「いいとう」 麻里が力く頷いた。 「産仲介のいい業者、紹介するわ。原状回復の見積もりも、きっちり取って敏男たちに請求送りつけてやりましょう」

「はい、お願いします」

翌週、葵は調布のマンションを産管理会社に預け、駅の真しい層賃貸マンションのに居を移した。 荷物は最限に絞り、汚された具はすべて処分して、本当に自分が着を持てるものだけを買い揃えた。

役所での民票閲覧制限の続きは無事に完し、葵のしい所は、親族であっても法に追跡することは能になった。

敏男の群馬の実は、予定通り競売にかけられたと、麻里から連絡が入った。 借の全額を返済することはできず、敏男と悦子は郊の古い公営団に入居し、雇いの仕事を掛け持ちしながら返済に追われているという。

健司は方を眩ませたまま連絡が取れず、宗助は退職を切り崩してその穴埋めに奔しているらしいが、実の親戚から「妹を甘やかして共倒れになった無能な男」として孤し、あれほど執着していた域の寄りいにも顔をせなくなったと聞いた。

だが、それらのらせを聞いても、葵のが波つことはなかった。 彼らが選んだ無計画と傲の結末を、彼ら自が引き受けているだけの話だった。 葵にはもう、同する義務も、関わる理由もしなかった。

しい部のベランダには、遮るもののない広い京の空が広がっていた。 夕暮れの空が淡い茜からへと移り変わっていく。

スマートフォンがく鳴った。 会社からの、来期の規模プロジェクトのリーダー就任を打診するメールだった。

葵はさく息を吸い込み、返信画面をいた。 キーを叩く指先に、迷いは微もなかった。

自分のち、自分ので選び取った静かな常の真んで、葵の本当の活が、いま始まろうとしていた。

(完)

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