"母が隠した四十九枚の領収書" 第12話
「今は、気がいいぞ。航平」
僕が話しかけても、彼はやはり井か、くの並みを見つめているだけだ。 折、がたいと喉を鳴らし、僕の袖を細い指先でかすかに掴むことがあった。 その微かな体温をじるたびに、僕は自分がここにいる理由を確かめることができた。
戸籍を訂正する裁判を起こすことはしなかった。 梨医師を告発することも、敏夫叔父を問い詰めることもしなかった。 僕が「佐伯航平」の戸籍を捨てて「名もなきユウキ」に戻れば、ベッドの彼を守る公な枠組みは完全に崩壊し、彼は再び元の旅病として、名のないままたい施設を転々とすることになる。
僕は、佐伯航平のままできることを選んだ。 それは母の嘘を許すためではない。 この青から奪ってしまったのみを、ぬまで僕自の肩で背負い続けるための、僕なりの選択だった。
のある、茅野のには例よりく初がった。 く染まり始めたヶ岳をアパートの窓から見げながら、僕は机のに置いた母の形見の青い缶をけた。
には、しく枚の受領証が加わっていた。 僕の座から、青峰苑へ振り込んだ最初の万円の領収。
通算、枚目。
母の丸っこい文字の代わりに、僕の角ばった跡でかれた『佐伯 航平』のサインが、受領印の朱のに静かに並んでいた。
のる音だけが、部のでさく続いていた。