"十二年前、泥水に捨てられた私" 第7話
「……しだけ、考えさせてください」
奈緒はそう答えるのが精杯だった。
その週末、奈緒は紬を連れて、所のさな児童公園にかけていた。
よちよち歩きを始めた紬が、むらでタンポポを見つけて満面の笑みを浮かべている。
(私に、あんな派な会社で働く資格があるのだろうか。分相応なを見て、結局周りに迷惑をかけるだけではないだろうか)
迷いを抱えたままアパートに戻ると、集ポストのに、通の分い封筒が押し込まれていた。
宛名を見た瞬、奈緒の臓が凍りついた。
差の名は、『隆司・絵里』。
震える指先で封を破ると、からてきたのは、箔押しが施された豪奢な案内状だった。
『男・翔太 初節句ならびにお披目会のご案内』
つ折りのカードをいた瞬、奈緒の目にび込んできたのは、プロのカメラマンが撮した族写真だった。
豪華な訪問着を纏い、勝ち誇った笑みを浮かべる絵里。
その隣で、偉そうに胸を反らせる隆司。
そしての腕のには、丸々と太った男の赤ん坊が、の紋が入った豪華な祝い着に包まれて抱かれていた。
写真の端には、わざわざきの文字が添えられていた。絵里の流麗な跡だった。
『奈緒、元気にしてる? は今、跡継ぎの誕で毎がお祭り騒ぎよ。
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男の子を産むっていうのは、こういうことなのね。あなたも貧乏に負けず、せいぜい逞しくきなさいね』
奈緒ので、何かが音をてて千切れた。
忘れようとしていた屈辱。
の奥底に押し込めていたりと悔しさ。
それらが黒い炎となって、全の血を沸騰させた。
「……ふざけないで」
奈緒は案内状を両で力任せに握り潰した。
見せびらかすために、わざわざ居所を突き止めて送りつけてきたのだ。
「おは負け犬だ」「男を産めなかった無価値な女だ」と嘲笑うために。
涙が次から次へと溢れたが、それはしみの涙ではなかった。
「こんな惨めないをするために……私と紬はきているんじゃない!」
奈緒は棚へ駆け寄り、あのハンドクリームの箱の底に入れてあった圭吾の名刺を掴み取った。
震える指で携帯話の番号を押す。
コール音が回鳴り、相がた。
『もしもし、神崎です』
落ち着いた、しかし力い声。
奈緒は涙で喉を詰まらせながら、腹の底から叫ぶように言った。
「神崎会……! 先のお話、お受けさせてください! 私……私、働きたいです! どんなことでも、ぬ気で頑張りますから!」
話の向こうで、圭吾がく、しかし温かく息を呑む配が伝わってきた。
『……待っていたよ。曜、に本社エントランスに来てくれ』
話を切った、奈緒はに握り潰した箔の案内状を、に圭吾の名刺を握りしめていた。
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過を焼き尽くすりと、未来へ踏みす覚悟。
つのが奈緒のでつに溶けい、彼女をしい戦いへと駆りてていた。
翌週から、奈緒の活は激変した。
圭吾の計らいにより、紬は神崎ホールディングスが提携する最設備のった託児施設に預けられることになった。
奈緒自も、リサイクルショップで番かった黒のリクルートスーツをにまとい、総務部の正社員として初社を果たした。
ガラス張りのエントランス。
数まで自分がのついたモップで磨いていたを、社員証を首からげて歩く。
「本付で総務部に配属となりました、成瀬奈緒です。未経験で至らない点ばかりですが、もく戦力になれるよう全全霊で努めます。よろしくお願いいたします!」
部署の朝礼でをげた奈緒に注がれたのは、好奇と、あからさまな値踏みの線だった。
奈緒のにちはだかった現実は、像を絶するほど険しかった。
話の取り次ぎ、ビジネスメールの作法、パソコンのキーボード操作、表計算ソフトの関数、ファイリングの規則。
これまで仕事と事しからなかった奈緒にとって、オフィスワークのすべてが暗号の羅列のようにえた。
必でメモを取り、マニュアルを読み込むが、焦れば焦るほどミスをねた。
「成瀬さん、この伝票、フォーマットが違うってにも言ったわよね?」