"十二年前、泥水に捨てられた私" 第9話
都からしれた、緑に囲まれた閑静なフレンチレストラン。
個のキャンドルが揺れる、事を終えてにると、夕方からっていた通りがちょうどがったところだった。
濡れたアスファルトが灯のを反射して、まるで夜空のを敷き詰めたように輝いている。
圭吾ので奈緒のアパートのまで送ってもらった。
をりようとした奈緒の腕を、圭吾が引き止めた。
「奈緒さん」
圭吾の声は、これまで聞いたどの声よりもく、そして真剣だった。
「君と、紬ちゃんを……私ので守らせてくれないだろうか」
奈緒の臓が激しくねがった。
「……私には、子供がいます。度結婚に失敗し、を追いされた傷物です。会のような素らしい方に、私など釣りうはずがありません」
「傷物などと度と言うな」
圭吾は力いで、奈緒の両を包み込んだ。
「私がしているのは、名でも血筋でもない。理尽な絶望を乗り越え、娘のためにを啜ってでもを向く、君というそのものだ。君と紬ちゃんを、をかけて幸せにしたい」
「でも……神崎には、継ぎが必なのでしょう? 私は……ので、男の子を産めない体だと罵られました。もし、あなたの子を産めなかったら……」
「そんなものが何だ」
圭吾は奈緒の言葉を遮った。
「血の繋がりや跡継ぎの性別で縛るものを、族とは呼ばない。
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君がそこにいて、笑っていてくれること。紬ちゃんが健やかに育つこと。それ以に価値のあるものなど、この世につもない」
その言葉を聞いた瞬、奈緒のので頑なに閉ざされていた最の扉が、音をてていた。
このとなら。
このと緒なら、もう度、を信じてきていけるかもしれない。
圭吾のは、言葉だけにとどまらなかった。
週末になると、圭吾は超忙なスケジュールのを縫って、奈緒と紬を公園や族館へ連れしてくれた。
級ではなく、きやすいカジュアルな装で現れ、紬を肩して芝のを駆け回る。
奈緒が作った形はいびつだが具沢の卵焼きサンドイッチを、圭吾は「世界で番美い」と言って破顔した。
見りだった紬も、あっというに圭吾に懐いた。
あるれた曜、芝のでピクニックをしていた、圭吾の肩からりた紬が、奈緒の膝のにちょこんと座り、澄んだ瞳で見げて言った。
「ママ、あのね……。けいごおじちゃん、パパになってほしいな」
まだ幼い女の、混じり気のない純粋な願い。
その言が、奈緒の背を完全に押した。
その夜、アパートの畳半で、圭吾は片膝をつき、奈緒の指にシンプルなプラチナの指輪を嵌めてくれた。
「私と結婚してください」
「……はい。よろしくお願いいたします」
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紬を証にして交わした、ささやかで、しかし何よりも固い誓いだった。
入籍、奈緒は圭吾の広な邸宅へと移りんだが、贅沢に溺れることなく、事と子育てにを尽くした。
圭吾の注ぐ無償のに包まれ、奈緒のから過の刺々しい傷が消えっていった。
そして、結婚してが過ぎた頃、いがけない奇跡が訪れた。
体調の異変をじて訪れた産婦科で、医師から告げられた言葉に、奈緒はがを疑った。
「成瀬さん……いえ、神崎さん。ご懐妊ですよ。おめでとうございます」
「妊娠……? 私が……ですか?」
にいた頃、紬を産んでからは度も妊娠することができず、義母からは「毛の荒野」「種なし女」と罵られ続けた。
自分はもう度と子供を授かることのできない体なのだと、の底で諦めていたのだ。
帰宅した圭吾にエコー写真を見せると、普段は静沈着な男が、奈緒を壊れ物のように抱きしめ、子供のように肩を震わせて涙を流した。
「ありがとう……奈緒、本当にありがとう……!」
を経て産声をげたのは、圭吾によく似た力い目元をした男の子だった。
『陸(りく)』と名付けられたその子を胸に抱いた、奈緒のから、かつて呪縛のようにこびりついていた「男の子を産めない」という劣等が、完全に散していった。
だが、奇跡はそれだけに留まらなかった。
まるで、過にせき止められていた命の奔流が気に溢れしたかのように、神崎には次々としい命がいりたのだ。