"十二年前、泥水に捨てられた私" 第12話
(塩を撒かれ……砂りの夜……ヶ……!)
隆司の脳内で、忌まわしい記憶の扉が爆発するように吹きんだ。
豪の、のでだらけになって泣き叫んでいた女の姿。
「紬の薬だけでも」とすがりついてきた細い腕。
自分が酷に閂を落とした、あの鉄の。
「ですが、彼女は決して諦めませんでした」
圭吾の澄んだ声が、会の隅々まで響き渡る。
『彼女は夜のビル清掃の仕事をしながら、女つで娘を慈しみ、育てげました。そして……暗の底で、私と会ってくれたのです。私のほうこそ、彼女の気く温かい魂に救われました』
圭吾は誇らしげに胸を張り、子供たちが並ぶ壇をで示した。
『見てください。私と結婚した、彼女はなんと、ものしい命をこの世にみしてくれました。がには今、聡な女をに、元気で逞しいの息子、そしての憐な娘がおります!』
スポットライトが、子供たちを鮮やかに照らしした。
父親譲りの精悍な顔ちをした男の陸。
利発そうな瞳を輝かせる次男の湊。
そして、その央につ奈緒の顔が、型スクリーンに写しになった。
の歳を経て、かつてのやつれた面は消えり、内面からの気品と性に満ち溢れた、神々しいまでの美貌。
しかし、その涼やかな目元も、凛と結ばれた唇も、紛れもなく――。
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「あ……あ……あ……」
隆司の喉から、空気の抜けるようなけない鳴が漏れた。
膝から完全に力が抜け、隆司はそのの理のに両をついて崩れ落ちた。
「奈緒……? 本当に……おなのか……?」
男の子が産めない体だと?
毛の欠陥品だと?
全部、嘘だった。
彼女は産めない体などではなかったのだ。
自分たちとのに産まなかった――いや、産めなかったのは、自分たちの勝さと酷さが、彼女のと体を追い詰めていただけだったのだ。
彼女は今、本を牛る超巨企業のトップの妻となり、何億もの宝を纏い、の素らしい子供たちに囲まれて、世界の頂点にっている。
それに比べて、自分はどうだ。
跡継ぎだと溺した息子は警察汰を繰り返すチンピラに成りがり、親友を略奪してまでに入れた妻は老け込んで罵りうだけの邪魔者になり、先祖代々のは借まみれでにも倒産寸。
「あいつが捨てられたんじゃない……俺たちが、本物の宝物をのに投げ捨てて……ただのゴミを事に拾いげただけだったのか……!?」
その残酷すぎる真実を理解した瞬、隆司の胸を、かつて経験したことのない激しい悔と絶望の津波がみ込んだ。
隣でへたり込んだ絵里もまた、能面のように青ざめた顔で壇を見つめたまま、ガタガタと歯の根を鳴らしていた。
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自分が奪ったはずの男は無能なアルになり、自分が奪ったはずの席は沈没だった。
奈緒が自分に負けたのではなく、最初から相にすらなっていなかったのだ。
壇では、圭吾のスピーチが拍采ので幕を閉じていた。
『族とは、血筋や督という名の鎖で縛るものではなく、と尊敬によって築きげるものだと、私は妻から教わりました。奈緒、そして子供たち。私を夫にしてくれて、父親にしてくれて、本当にありがとう』
会がに包まれ、鳴り止まないスタンディングオベーションが奈緒と圭吾にり注ぐ。
奈緒は優雅に会釈をし、夫と子供たちとともに、誇らしげに壇をにした。
その輝く背を、隆司は涙とでぐしゃぐしゃになった顔で見送るしかなかった。
*
パーティーが終わり、般の招待客たちが退したのホテル最階。
神崎のは、関係者専用のVIPラウンジで静かに寛いでいた。
「みんな、今は本当によくやってくれたね。ありがとう」
圭吾が子供たちに温かいオレンジジュースを渡し、を撫でる。
女の紬が「お父様のスピーチ、とても素敵でした」と微笑み、男の陸が「母さん、世界で番綺麗だったよ!」と誇らしげに胸を張る。
奈緒もまた、胸元にを当て、堵の息を漏らしていた。
すべてが終わった。
壇から、会の隅で惨めに崩れ落ちていた元夫と絵里の姿は見えていた。
だが、議なほど、胸のには復讐のすら湧いてこなかった。