"廊下の清掃員が紡ぐ奇跡のメス" 第7話
筋壊の境界域はすでに尖部全体に及んでいる。アミオダロンの静注は無だ。直ちに内胸脈(LITA)を採取し、肺にLADへジャンプグラフトを敷かなければ、あと分で脳に至る」
滑らかで、寸分の狂いもない解剖学見に基づいた専用語の連射。 ドクター・リーの顎がガクリと落ちた。 「な……何だと……?」 「伏静脈を採取しているはない」桐はリーの目をまっすぐに見据えた。「LITAの骨格化採取と同に、脈へのカニュレーションをう。ヘパリン投与量は体キログラムあたり百単位。除細をこれ以繰り返すな、筋を無駄に焼灼するだけだ。今すぐヘパリンを入れろ!」
それは、清掃員の懇願ではなかった。 何千もの修羅をくぐり抜けてきた、最峰の術者だけが放つことのできる、絶対な統率者の「命令」だった。 その気迫に気圧され、ダニエルズ院が戦慄しながら歩ずさった。 「あ、貴様……体何者なんだ……? どこでそんな識を……」
「ただの……昔、を切っていた男です」 桐はそうく答えると、処置用袋のディスペンサーからラテックス袋を引き抜き、両に滑り込ませた。 「迷っているはありません。私が切らなければ、この男は確実ににます。責任はすべて私が取る」
「ふざけるな!」マイケルが桐の肩を掴もうとを伸ばした。
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「法侵入と傷害罪で刑務所からられなくしてやる――」
そのだった。 初療の、廊の向こうから鳴のような音とともに、ずぶ濡れのコートを翻した柄な男がび込んできた。 「どけ! どいてくれ!」
臓科部、ドクター・リチャード・ハミルトンだった。 空港からの速がで封鎖され、パトカーの先導で嵐のを突破してきた彼の息は乱れ、額にはと汗が入り混じってしたたり落ちていた。
「ハミルトン部!」マイケルが救いの神を見るような表で叫んだ。「来てくださったんですね! く、こののおかしい清掃員を追いしてください! 勝に初療に入り込んで医療為を――」
だが、ハミルトンはマイケルの言葉などに入っていなかった。 彼の線は、初療の央で袋を嵌め終えた青い作業着の老に釘付けになっていた。 ハミルトンの巨躯が、目に見えて凍りついた。血の気がサーッと引き、その瞳に浮かんだのはりではなく、神仏の顕現をにした信徒のような、戦慄と狂おしいほどの畏怖だった。
「ま……まさか……」 ハミルトンの唇が刻みに震え、コートのわせ目がから滑り落ちた。 「ドクター……キリュウ……? 桐……徹先……!?」
初療内の全員が、がを疑った。 マイケルがぽかんとをけた。「ぶ、部……? 何を言って……この男はただの掃除夫で――」
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「黙れ、無礼者!!」 ハミルトンの声が初療を揺るがした。彼はマイケルの胸を力任せに突きばすと、桐のに歩み寄り、膝を折らんばかりの勢いで々とを垂れた。
「桐先……! なぜ、なぜあなたがこのような所に……!? 、学会から突然姿を消されて以来、々世界の臓科医がどれほどあなたを探し求めたか……! 先が発された『桐式微血管吻法』がなければ、私の今のキャリアすらしません!」
ハミルトンは狂乱状態のスタッフたちを振り返り、叫んだ。 「おたち、この方がどなたか分かっているのか! かつて本の京学で百例の臓術をすべて成功させ、『神の』と呼ばれた伝説の科学教授、トオル・キリュウ博士だぞ!!」
病を支配したのは、もはや沈黙ではなく、精神の崩壊にい衝撃だった。 マイケルの顔から完全に血が消え失せ、膝がガクガクと音をてて震え始めた。マーガレットは両でを覆い、ダニエルズ院は壁に背を預けなければっていられないほど狼狽していた。 自分たちが毎ゴミのように見し、笑を浴びせ、雑用を押し付けていた無なアジアの老清掃員。 その正体が、医学の歴史にその名を刻む、ける伝説そのだったのだ。
「ハミルトン先」 桐の静かな声が、ハミルトンの揺を遮った。
「昔の話はです。患者の止からすでに分が経過しています。