"十八年間、壁の中にいた妻" 第1話
201111、野県諏訪。
晩のえ込みが厳しくなり始めた旧の角で、宅再発の型が唸りをげていた。
度経済成期に建てられた古い造や蔵が、次々と解体されていく。キャタピラが砂利を踏みしめる鈍い振が、乾いた空気を揺らしていた。
作業員のが慣れた作でショベルカーを操り、母から突きたれの壁にバケットを当てた。
老朽化したモルタルが音をてて剥がれ落ちる。
その奥にあったのは、古い赤レンガとコンクリートブロックで雑に塞がれた、構造の自然な壁だった。
バケットの先端がレンガの継ぎ目をこじけた瞬、乾いたセメントのがくちった。
ガラガラと崩れ落ちる瓦礫の隙から、何かが滑り落ちてきた。
「おい、待て! 止めろ!」
で誘導していた現作業員が、咄嗟に両を広げて叫んだ。
のエンジンがアイドリングに落とされ、作業現にふっと静寂が戻る。
崩れたレンガとモルタルの破片に埋もれるようにして、とにまみれた茶い革の塊が転がっていた。
作業員が元に歩み寄り、瓦礫を払いのけた。
それは、旅用のボストンバッグだった。
セメントのアルカリ成分に晒されていたためか、革の表面はボロボロに化し、ひび割れている。
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無理やり狭い隙に押し込まれたようで、属のファスナーはひどく歪んでいた。
「なんだこれ……ゴミか?」
駆け寄ってきた現監督が、軍越しにバッグの持ちを掴んだ。
ずしりと、湿ったような嫌なみがあった。
ファスナーの隙にマイナスドライバーを差し込み、固着した属を力任せに引きける。
隙から漏れたのは、密閉されていた埃と、鉄錆のような微かな臭気配だった。
から最初に転がりたのは、角が折れ曲がったプラスチックケースだった。
現監督が指先でを拭う。
に収まっていたのは、1993発の分証だった。
ラミネート加された写真の奥から、髪を品にまとめた若い女性が微笑んでいた。
記載された氏名は、篠原綾乃。
さらにバッグの底からは、女性用の着、化粧ポーチ、そして折りたたまれたいシルクスカーフが滑り落ちた。
スカーフを広げた現監督の喉が、ヒッとさく鳴った。
い布のほぼ全体が、どす黒く変した染みで覆われていた。
それは誰が見ても、が経って酸化した量の血液の痕だった。
「警察だ……おい、く警察を呼べ!」
監督の鳴り声が、解体現の埃っぽい空気を切り裂いた。
*
通報から分、諏訪警察署のパトカーがを塞ぐようにした。
からりったのは、野県警の松永警部補だった。
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松永は未解決凶悪事件の専任捜査官として、、古い調と向きい続けてきたベテラン刑事だった。
現に張られたち入り禁止の黄いテープをくぐり、松永はブルーシートのに置かれた茶のボストンバッグのにしゃがみ込んだ。
鑑識係が際よくピンセットで遺留品を仕分けていく。
松永は、証拠品袋に入れられた分証に線を落とした。
篠原綾乃。
昭まれ。当歳。
その名を目にした瞬、松永の記憶の奥底にあった古い事件の記憶が、鮮にね起きた。
199310。
結婚してわずか週、沖縄への婚旅から帰宅した直に忽然と姿を消した、諏訪の「若嫁蒸発事件」。
当、まだ駆けしの巡査だった松永も、聞き込みに駆りされた記憶があった。
「松永さん、これを見てください」
鑑識係が、バッグの底から取りしたさない片を示した。
信州学医学部附属病院の、199310付の診療費領収だった。
「違いありません。あの事件の当事者です」
鑑識がスカーフの黒い染みにルミノール試薬を吹き付け、遮フードを被せた。
暗ので、青い蛍が激しく、禍々しいを放った。
「の血痕です。相当な血量ですよ」
松永はちがり、によって無残に破壊されたれの壁を見げた。
建築図面と照した鑑識の報告によれば、バッグが埋まっていたのは本来の耐力壁ではなく、1993頃に内側へ違法に増築された、わずかセンチほどの壁の空洞だった。