"十八年間、壁の中にいた妻" 第4話
(これじゃ所に気づかれる! 俊平が起きてきてしまう!)
静枝は慌ててを踏み消した。
煙の臭いに怯え、や汗を流しながら周囲を見渡した、静枝の目にび込んできたのは、先から始まっていたれの増築事現だった。
職たちが帰ったあとの現には、しく積まれた赤レンガの壁と、既のモルタル壁のに、幅センチほどの狭い隙がいていた。
井の板が張られるの、暗い奈落のような空洞。
静枝はバッグを抱え、によじ登った。
そして、その隙へ、焦げ跡と血のついたバッグを力任せに押し込んだ。
ドサリと、いものがに落ちる鈍い音が響いた。
静枝は作業からセメントの袋と砂、官用のコテを持ちした。
無でと混ぜわせ、モルタルを練りげる。
そして、脚に乗り、レンガの隙をいモルタルで塗り固めていった。
職が見れば目で素の仕事とわかる粗雑な塗り方だったが、刻もく隠さなければというだった。
午半。
の空がみ始めた頃、作業は終わった。
庭の血痕はすべて消えり、バッグは壁の奥くに封印された。
静枝はたいで入りにを洗い、血の沫がついた割烹着を着替えた。
午。
酔いのを押さえながら、俊平が寝からてきた。
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「……母さん、綾乃は? あいつ、部にいないんだ」
台所で何事もなかったかのように朝の噌汁を作っていた静枝は、静かに振り返った。
その顔には、あらかじめ準備されていた徹な仮面が張り付いていた。
「俊平、落ち着いてお聞き」
「え?」
「綾乃さんなら、け方にてったよ。きな旅バッグを抱えてね」
俊平は目を見いた。
「てった……? なんでだよ!」
「引き止めたんだよ、母さんも。『どこへくんだい』ってね。でも綾乃さん、振り切っててった。『もう探さないでください』って言ってね……」
「そんな馬鹿な! 昨帰ってきたばかりだぞ!?」
「あの子はね、最初からそのつもりだったんだよ。うちの結納を持って、逃げたんだよ」
俊平は崩れ落ちるように玄関へった。
綾乃の靴は、なくなっていた。
彼女がいつも使っていた傘も、玄関の鍵も消えていた。
ただ、え切ったのが、け放たれた玄関から吹き込んでいるだけだった。
*
午、俊平は諏訪警察署へ駆け込み、方者届を提した。
駆けつけたの捜査員が沢井を調べたが、すでに綺麗にで洗い流された裏庭からは、何の物証も見つからなかった。
静枝は警察官に対し、切の乱れを見せずに同じ証言を繰り返した。
「午過ぎでした。物音がして庭にてみたら、綾乃さんがきな茶のバッグを持って、裏戸からてこうとしていたんです。
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止めたんですが、私を突きばすようにして、そのままりってしまいました」
「ご夫婦ので、トラブルなどは?」
「昨夜、俊平が酷く酒に酔って帰ってきて、寝で酷い論になっていました。綾乃さんは、それが嫌になったんだといます」
警察は、姑の貫した証言と、争った形跡のない綺麗な現を見て、これを「婚活のによる突発な」と判断した。
聞き込みの過程で、町れの沿いにある個商の主から、「け方の半頃、顔のひどく悪い若い女性が、流しのタクシーに乗り込むのを見たような気がする」という曖昧な目言が得られた。
しかし、当のタクシーにはドライブレコーダーなども形もなく、防犯カメラも設置されていない代だった。
元のタクシー会社を数社当たったものの、それ以の取りは掴めなかった。
数、綾乃の実の両親が血相を変えて沢井に鳴り込んできた。
父親の茂と、母親の恵子だった。
「うちの娘が、理由もなくをびすはずがありません! 俊平さん、娘に何をしたんですか!」
取り乱す恵子に対し、静枝はたく言い放った。
「何をしたかも何も、持参を抱えててったのはそちらのお嬢さんですよ。息子の純を踏みにじって、お目当てで結婚したんじゃないんですか?」
「なんですって……! 綾乃がそんなことするわけがないでしょう!」
父親が掴みかからんばかりに激昂したが、肝の綾乃からの連絡は切なく、反論のしようがなかった。