"十八年間、壁の中にいた妻" 第5話
やがて、さな田舎町に、残酷な噂が広まり始めた。
『沢井のところの嫁、結納を持って男と逃げたらしいぞ』
『いや、俊平が酒乱でDVを働いて、嫁を殺してに埋めたんじゃないか』
『あそこのには、恐ろしい秘密がある』
無責任な囁きは、俊平の活を容赦なく破壊していった。
警察からも、俊平は参考として執拗な取り調べを受けた。
「本当は君が殺したんじゃないのか?」
「遺体はどこへ隠した?」
どれだけ潔を主張しても、取調官のややかな線は変わらなかった。
だが、体も凶器もないまま、捜査はやがてき詰まり、事件は「未解決の事案」として類ののに埋もれていった。
俊平のは、そのから完全に止まった。
職ではい目で見られ、やがて退職を余儀なくされた。
母の静枝は、世のたい線に耐えかねるようにして塞ぎ込み、やがて体調を崩して介護施設へとを寄せるようになった。
、暗いに残された俊平は、昼から酒をあおり、荒れ果てたを守り続けた。
寝の鏡台のには、19931023の夜のまま、綾乃の使いかけのや化粧が埃を被って並べられていた。
ベッドの片隅には、彼女が使っていた淡いピンクの毛布が、当の形のまま畳まれていた。
「綾乃が帰ってきた、何つ変わっていちゃいけないんだ」
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を過ぎ、髪の混じり始めた俊平は、震えるで鏡台の埃を拭いながら、毎晩のようにそう呟いていた。
「俺は待ってる。おが帰ってくるまで、ずっとここで待ってるからな……」
そうして、という残酷な歳が流れていった。
*
2011。
諏訪から吹き付けるは、すでにの鋭さを帯びていた。
沢井の旧居は、雑がい茂り、蔦が壁を覆う廃と化していた。
歳になった沢井俊平は、アルコールで荒れた胃を抱え、汚れたジャンパーを着て、ち退きを迫る再発組の職員たちと激しく対していた。
「駄目だ! 壊すなと言っているだろう!」
俊平は職員の胸ぐらを掴み、血った目で叫んだ。
「このを取り壊したら、綾乃が帰ってくる所がなくなっちまうんだよ! あいつは帰ってくるんだ!」
「沢井さん、もう裁判所の制執命令がているんです。これ以は法占拠になりますよ」
職員たちは困惑とれみの入り混じった表で、俊平を取り押さえた。
法な猶予は、すでに限界を迎えていた。
数、県警の松永刑事が俊平の元を訪れていた。
「沢井俊平さんですね。奥さんの失踪事案について、再捜査をっています。DNAの提供をお願いしたい」
その言葉に、俊平はりを爆発させた。
「DNAだと!? おら警察は、何つ調べもしなかったくせに、今さら何なんだ! あいつはんでない! 俺を殺し扱いした次は、あいつがんだと決めつけるのか!」
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俊平は警察を追い返した。
妻のを信じることだけが、彼が正気を保つための、唯の細い糸だったからだ。
制執の当。
俊平は財具をトラックに積み込み、引き渡しの類に震えるで署名した。
母の玄関ので、俊平は膝をつき、座するようにして額を面に擦りつけた。
「綾乃……すまない。を守れなかった……本当にすまない……」
の男が声をげて泣く姿を、作業員たちは言葉もなく見つめていた。
そして、午。
の爪が、沢井の根を引き裂いた。
埃と轟音の、守り続けた俊平のが、無残な瓦礫のへと変わっていく。
午半。
作業はれの解体へと移った。
そして――あの茶のボストンバッグが、崩れ落ちた壁の隙から、のに転がりたのだ。
現に詰めていた松永刑事が鋭く叫んだ。
「作業止! 全員そこかられろ!」
くで解体を見守っていた俊平は、規制線の向こうでブルーシートのに置かれたその物体を見た瞬、息が止まった。
にまみれ、セメントで固められていたが、見失うはずがなかった。
、婚旅へくために、でデパートへって選んだ、あの茶の革バッグだった。
「……あ……あ……」
俊平のから瞬で力が抜け、たいのにへたり込んだ。
なぜだ。
なぜ、綾乃のバッグが、あのの、壁のからてくるんだ。