"十八年間、壁の中にいた妻" 第6話
脳裏を閃のように駆け巡ったのは、の景だった。
失踪の翌朝、異様な形相でれの事現へ急ぎ、セメントを練っていた母・静枝のろ姿。
『綾乃さんは荷物を持っててったよ』
静枝のあの乾いた声が、俊平のので鳴りのように反響した。
「まさか……母さん……おが……?」
俊平の喉から、獣のような呻きが漏れた。
、自分が妻殺しの容疑者としてろ指を指され、世から孤してきてきた、真実は、自分が守り続けてきたあのの壁のに埋まっていたのだ。
*
諏訪警察署の鑑識課では、極度の緊張の、バッグの披作業がめられていた。
セメントで固着したファスナーを慎に切りき、がつずつステンレスのバットに並べられていく。
黒変した血液にまみれたシルクスカーフ。
女性用の着と類。
そして、底の方から、湿気でページが張り付いた冊のさな記帳がてきた。
鑑識係が特殊なを当て、慎にページを剥がしていく。
方、科捜研からは緊急の鑑定結果が松永の元へ届いた。
「スカーフに付着していた血痕のDNA型、採取されていた篠原綾乃さんのご両親のDNAと照しました。母子・父子関係に矛盾なし。99.99パーセントの確率で、篠原綾乃本の血液です」
松永は受話器をく握りしめた。
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「違いなく本の血だ」
続いて、のれの事に関わっていた官職の親方が、警察署に呼ばれた。
すでに歳を過ぎていた職は、提示された現の写真を見て、即座に頷いた。
「ああ、覚えてますよ。あのの増築事だ。おかしかったんだよ、あのお婆さん」
「何がおかしかったんですか?」
松永がを乗りす。
「れの奥の壁、レンガを積んだのモルタル仕げを、急に『予算を浮かせたいから自分でやる』って言い張ったんだ。素が塗ったらガタガタになるから止めたんだが、どうしても自分でやるって聞かなくてね。翌朝現にったら、もう雑なモルタルで塞がれてたんだよ。変なだなとったのを鮮に覚えてます」
堀は、完全に埋まった。
さらに松永は、当の気象台の記録を取り寄せていた。
19931024未。
諏訪方はいに包まれ、湿度はパーセント以。
発見されたバッグの底には、で炙られて炭化した焦げ跡があった。
(犯はまず燃やそうとした。だが、湿気と煙の臭いで断し、事だった壁の空洞に落としてセメントで塞いだんだ)
そして、松永の部が、内の介護療養病に入院している沢井静枝の部から、決定な私物を押収してきた。
静枝が肌さず持っていた古い聖。
その旧約聖・マラキの頁のに、さく折りたたまれた枚のメモ用が挟まれていた。
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震える鉛の跡で、こうかれていた。
『平成 罪を覆う。主よ、が子を赦したまえ』
松永はく息を吐きした。
「容疑者は確定だ。沢井静枝、緊急逮捕の続きを取れ」
*
介護療養病の個。
歳になった沢井静枝は、ベッドのでぼんやりと窓のの葉を眺めていた。
軽度の認症を患っており、過と現の区別がつかなくなることが増えていたが、警察官たちが部に入ってきた瞬、その老いた瞳の奥に鋭いが宿った。
「沢井静枝さんですね。篠原綾乃さんに対する殺、および体遺棄の容疑で逮捕状がています」
松永が逮捕状を読みげる。
静枝は取り乱すこともなく、たださく息を吸い込み、静かに目を閉じた。
まるで、待ち続けていた破滅が、ようやく訪れたのを受け入れるかのように。
諏訪警察署の取調。
鉄パイプの子に座らされた静枝のに、松永は集められた証拠品を順番に並べた。
DNAの鑑定。
官職の陳述。
気象庁の記録。
そして、聖に挟まれていた『罪を覆う』のメモ。
最に、あの茶のボストンバッグのカラー写真が突きつけられた。
「静枝さん、これに見覚えがありますね?」
静枝は線を落とし、頑なにを真文字に結んでいた。
「私は……何もりません。そのバッグは、あの子がてくに持ってったものです」
「嘘をついてはいけない。バッグが埋まっていた壁のセメントからは、あなたの掌紋が検されている」