"10年逃亡した父の未開封400万" 第16話
かつて母に同の言葉を投げかけていた所の々は、蜘蛛の子を散らすようにを閉ざし、私と目をわせることすら避けるようになった。
だが、私にはもう、どうでもいいことだった。
父の「失踪宣告」は取り消され、公な戸籍には正式にの事実が記載された。 父にかけられていた「横領犯」「逃者」の汚名は、完全にがれた。
初。 私は、取り壊しが決まった団をれ、都内のさなアパートへと引っ越した。 畳の、当たりのいい部。
部の央にあるさなローテーブルのに、聞を広げる。 そのに置いたのは、あのだらけだった、・センチの全靴だった。
私はバケツにぬるま湯を汲み、使い古したタオルを浸して固く絞った。
靴底の溝に挟まった、の赤を、ブラシで粒ずつ掻きす。 革の表面にこびりついたカビと埃を、丁寧に、優しく拭き取っていく。
キュッ、キュッ、と革が鳴る。
靴墨を取りし、乾いた布で塗り込んでいくと、んだようにくすんでいた褐の革が、窓から差し込む午のを浴びて、鈍く、力い輝きを取り戻し始めた。
父は、私を捨てて逃げたりしなかった。
あの、あの暴の夜、激痛に苛まれるを引きずりながら、父はこの靴を履いて、私のいる所へ逃げようとしてくれたのかもしれない。
その誇りだけは、母のどんな嘘も、植田のどんな暴力も、奪うことはできなかったのだ。
磨き終えた全靴を、私は部の玄関のたたきに、並べて置いた。
へ向かって、いつでも歩きせるように、つま先をまっすぐドアの方へ向けて。
「お帰り、お父さん」
カチリと、計の針がむ音がした。 止まっていた私のが、今、静かに、を向いてき始めていた。