"祭り食堂の逆襲" 第10話
その、カウンターの奥からけい子が静かにをいた。
「あのは……夕方からパートの2と緒に、50分の準備を全てめていました」
岩田がギロリとけい子を睨みつけたが、けい子は怯まなかった。
「2あるとおっしゃいましたが、のの夜から角煮の仕込みをして、あとしでお膳が全部揃うところだったんです。だから、『たかが予約1つ』では……」
けい子は、エプロンのポケットから、輪ゴムで束ねられた領収の束を取りし、カウンターのにパシッと置いた。
「これを見てください」
3枚の領収。
丸青果、1万2270円。
丸昇精肉、5万9630円。
鶏直送、1万5600円。
けい子はそのを、差し指で岩田のへとゆっくり押しし、静かに、だが毅然と言った。
「あなたが今、『予約1つ』と言ったものの、です」
岩田は領収をちらりと見ろし、でフッと笑った。
「なんだ、たった8万か。こんな端、いくらでも払えますよ。先も持って来たじゃないですか」
岩田は財布を取りそうとした。
しかし、けい子の声は静かだがりを孕んでいた。
「それは、材料費だけです」
岩田のが止まる。
「のの夜から寝ずに仕込んだ角煮のガス代も、朝5から作った料理のも、急に帰らされてしまった伝いのパートさんたちのも……そのには入っていません」
けい子は岩田の目を真っ直ぐに見据えた。
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「あの、入るはずだった25万円の売も、そこにはありません」
岩田は言葉に詰まり、助けを求めるように横につの方を見た。
「おい、! おもあの、別のがいいって言ったよな!?」
だが、は目をわせず、歩ずさった。
「いや、俺は最初から止めたんですよ。なぁ、岩田? 俺、あの『やめとけ』って言ったよな?」
岩田の顔から完全に血の気が引いた。方は誰もいない。
それでも、岩田は自尊を保とうと、最に拓也に向かって言い放った。
「たかが、社員80の田舎の建が! うちの100億の事業を、こんなことでふいにするわけが……!」
拓也が、初めて真っ直ぐに岩田の方を見た。
「『うちが選んでやってるだ』と。……現で、私にそうおっしゃいましたね」
岩田の肩がビクッとねた。あのの作業員が社だったという事実が、ここで再び岩田の喉を締め付けた。
拓也は静かに告げた。
「ええ、うちはさいです。ただ、そのさい会社に断られただけで、お宅の100億は消えるんですよ」
岩田は、をパクパクとさせたが、何も言葉を返すことができなかった。
部が、カウンターのの領収をに取り、く見つめてから、をうようない声で言った。
「うちが失ったのは、100億だけじゃない」
は岩田を徹な目で見ろした。
「さなだからと見して、平気で切り捨てるような傲なを、主任というポストに据えていた。
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……それが、うちの会社の、本当の負けだ」
その言葉を聞いた瞬、岩田の膝から完全に力が抜けた。
彼は倒れまいとくの子にを伸ばしたが、掴みきれずにに無様な音をてて片膝をついた。
そのの処分は、社内で静かに、しかし酷にんだ。
まず、肩きが消えた。翌週の事で、岩田は主任の役職を解任された。支の名簿に印刷された彼の名の横の役職名のに、細い取り消し線が1本引かれた。
28歳での主任昇という、彼が誇っていた社内最速の記録も、それで完全に終わった。
次に、き先が消えた。来の本社栄転の話は、社内の誰もにしなくなった。まるで最初からそんな話はなかったかのように。
役員が察に訪れた、岩田は必に挨拶にった。だが、かつて彼をがっていた役員は名すら呼ばず、ただ事務に頷いただけで素通りした。
は、最まで度も岩田に謝らなかった。社内の聞き取り調査で、「自分は止めた」と繰り返し証言し、それが公式な記録に残った。2が並んで昼にることは、度となかった。
キャンセルによる莫な損害と迷惑料は、岩田個と建設が折半する形で賠償された。
、部が自ら祭り堂に持参し、けい子に々とをげた。
けい子は、今度はそれを受け取った。岩田が突きしてきたあのの封筒とは、全く性質が違っていたからだ。