"港に妻を捨てた次期社長候補の末路" 第11話
夫の頬がわずかに赤くなった。
「君は本当に、のことを考えないな」
「考えています」
私はデスクにをついた。
膝がし震えていたが、声だけは絶対に震えさせなかった。
「だから、ここで終わらせたいんです。あなたが私を置きりにしたことを、私の定さのせいにしないでください」
夫は周囲を見た。
部、ナナさん、若い社員たち。
誰も彼の方には見えなかったのだろう。
彼はまた笑った。
けれど、今度の笑いはひどくく、乾いていた。
「わかった。今は帰る。君が静になったら連絡して」
「私は、今静です」
夫は何も答えず、を翻して部署をていった。
エレベーターの扉が閉まる音がくで聞こえた瞬、ナナさんが声で言った。
「今の、プリン個分くらい疲れた」
誰かがさく吹きして笑った。
その笑いで、張り詰めていた空気がしだけ緩んだ。
けれど、私のの緊張は解けなかった。
さな勝利だった。
夫の完璧な仮面に、初めてでヒビが入ったのだ。
その夜、母のへ帰ると、玄関のがり框に見慣れない袋が置いてあった。
名な級菓子のものだった。
「貴子さんが来たわよ」
母が台所からエプロン姿でてきた。
「なんて?」
「あなたを配してますって。あと、母親として静に見守ってくださいって」
母は噌汁の鍋をかき混ぜながら続けた。
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「それで私、言ったの。静に見守った結果、娘は今夜もここに泊めますって」
母はし得そうだった。
「お母さん、いね」
「を取るとね、失うものが減るのよ。膝の骨とか」
その変な冗談に、私はわず笑ってしまった。
夕の、菓子の袋をけると、季節の菓子が入っていた。
美しい菊の形をしている。
添えられたカードには、貴子さんのった文字でこうかれていた。
『の女性として、賢なご判断を』
私はそのカードをしばらく見つめた。
賢。
また私を都よく黙らせるための、綺麗な言葉だ。
スマートフォンをき、港の写真を表示した。
パールのイヤリングの。
さすぎる証拠だが、私にとってはがきい。
その、メールの着信通が来た。
差は夫ではなく、全く見覚えのないアドレスだった。
賢ではない、ランダムな文字列。
本文にはだけかれていた。
『奥様が見たものは、たぶん半分です』
私の胸の奥で、静かに導線が燃え始めた。
翌、私はそのいメールを何度も読み返した。
奥様が見たものは、たぶん半分です。
差名はどこにもない。
返信してもエラーで戻ってくるかもしれない、使い捨てのアドレスに見えた。
母は朝から、町内会の資源回収にかけていた。
ダンボールを縛る紐が見つからないと騒ぎ、結局台所の引きしからの福袋の赤いリボンをしてきた。
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「これでいいわよね。赤いけど」
「資源回収に華やかさはいらないとう」
「なダンボールにも、れのは必よ」
そんなのない会話をしながらも、私ののはずっとあのメールのことでいっぱいだった。
半分とはどういうか。
残りの半分は何か。
夫とさやが同じに乗っていた。
それだけなら、倫か、なくとも疑わしい関係だという話になる。
けれど、メールの言い回しはし違った。
まるでもっと別の、根本な嘘があるようなき方だった。
昼、私は瀬の旅代理を訪れた。
ガラス扉の鈴がカランと鳴ると、瀬はカウンターで駅弁のカタログを眺めていた。
「仕事に、お腹空きません?」
私が聞くと、彼は照れたようにカタログを閉じた。
「それ、仕事ですか?」
「応。お客様に聞かれたのために」
私は彼にスマートフォンを差しし、メールの画面を見せた。
瀬は表を引き締め、メガネのブリッジを押しげた。
「差、分かりませんね。いたずらだとう?」
私は首を振った。
「いたずらにしては、言葉が具体すぎます」
「逃げていますね。『半分』というのが逃げてる。全部は言えないでも、らせたい。そういうのき方に見えます」
瀬は自分のパソコンをき、キーボードを叩いた。
「森崎さんのクルーズ予約、元々は名でしたよね」
「うん。客はスイート」
瀬は画面を見つめた。
「貴子さんが選んだ内イベントの招待客リストに、部関係者が入っていた能性があります」