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"港に妻を捨てた次期社長候補の末路" 第17話

「こんなでも、焼き菓子に罪はない」

私は受け取って笑った。

もう、涙はなかった。

、森崎ホールディングスでは夫の次期社候補としての発表が延期された。

理由は「ブランド企画に関する社内確認のため」とだけ公表された。

から見ればさな揺れかもしれないけれど、体面をんじる森崎にとってはきな傷だった。

さやは契約を終したと聞いた。

彼女が夫を本当はどうっていたのか、私は最まで分からない。

被害者でもあり、加害者でもあり、仕事のできるでもあった。

つの名だけで簡単に片付かない。

夫からは何度も連絡が来た。

『話したい』

『誤解を解きたい』

『君にも悪いところはあった。それでも夫婦だろ』

文を見た、私はしだけ泣いた。

それでも夫婦。

その言葉にすがりついていた期が、私にも確かにあったからだ。

けれど、私はすぐには返事をしなかった。

マンションには、瀬と母に付き添ってもらって荷物を取りにった。

管理会社のは夫に確認を取ったらしく、気まずそうにマスターカードを通してくれた。

久しぶりに入った部は、驚くほど綺麗だった。

リビングのクッションはい、キッチンに洗いかけの器はなく、洗面台にはつない。

活の匂いがひどくい部だった。

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のクローゼットをけると、私のはそのまま残っていた。

まるで、私だけがに消えたみたいに。

母は持参したダンボールを組みてながら言った。

「全部持っていく?」

「必なものだけ」

「結婚式のアルバムは?」

私は棚のいアルバムを見た。

くと、夫が笑っていた。貴子さんも、母も。

あのの私は幸せそうだった。

それが嘘だったとはわない。

嘘ではなかったからこそ、余計に痛い。

「置いていく」

「いいの?」

「今は持てない」

母は黙って頷いた。

瀬は黙々と本の入った箱を運んでくれた。

パンフレットの分いファイルを見つけると、彼は「これいですね」とこぼした。

の旅はいんです」

「名言っぽい」

「今考えました」

、私は洗面台を見た。

いつもの癖で、見えない滴を拭きそうになったがを止めた。

もうここを、私がえる必はない。

玄関で靴を履いていると、ドアがき、夫が帰ってきた。

彼はし痩せたように見えた。

級なスーツを着ているのに、どこかシワが目つ。

彼のには、コンビニの袋が握られていた。

に、あの卵サンドが見えた。

「美緒」

母と瀬が作を止めて固まった。

夫はを見てし表を歪めたが、何も文句は言わなかった。

「荷物、持っていくのか」

「うん」

夫は軽く咳払いをした。

「全部じゃないんだな」

「必なものだけ」

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夫はリビングを見た。

ダンボールがつ。

私のは、ったよりない箱に収まった。

「話せないか」

「今は無理」

「いつならいい」

私はし考えた。

「あなたが、私を戻すためじゃなく、したことについて話せるようになったら」

夫は唇を噛んだ。

「俺、あの怖かったんだ」

いがけない言葉だった。

「さやのことが母にられて、会社にも響くとった。君にも責められるとった。だから、先にいた」

夫は私を見た。

「君を置いてけば、君がっても、でなだめれば済むとった」

なだめれば済む。

やはり、そうっていたのだ。

夫は苦しそうに自嘲して笑った。

「最だな」

私は答えなかった。

彼が自分で言った最を、私が慰めて否定する必はなかった。

「戻ってきてほしい」

「戻れない」

言葉は静かにからた。

夫は目を伏せた。

婚したいのか?」

その言葉に、胸がし痛んだ。

「まだそこまで決めてない」

それは本音だった。

すぐに答えをせるほど、の歳は軽くなかった。

したも、したも、全部私の部だった。

でも、同じ所には絶対に戻れない。

夫は頷かなかった。

ただ、コンビニの袋をく握りしめていた。

母がろから、さく咳払いをした。

「卵サンド、潰れますよ」

違いな言だった。

夫も私も瀬も、しだけ固まった、変な空気になった。

夫は袋を見ろし、微かに笑った。

「ここの、パンが乾いてるんです」

ってる」

私も言った。

そのさな会話が、しかった。

完全に憎めるなら、どれだけ楽だっただろう。

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