"港に妻を捨てた次期社長候補の末路" 第18話
私はダンボールを持ち、玄関をた。
エレベーターので、瀬が何も言わずにくボタンを押してくれた。
母は「腰に来るわ」と文句を言いながら、番軽い箱を持っていた。
マンションのにると、空は曇りだった。
数週、私は母ののくにさな部を借りた。
駅から徒歩分、築の古い階建てアパート。
オートロックも宅配ボックスもない。
のは階段が滑りやすい。
でも、窓をけると商の夕方の音がよく聞こえる。
広報部の仕事は辞めた。
辞める、ナナさんが袋いっぱいのコンビニスイーツをくれた。
「これ、退職祝いとしてどうなのってじだけど」
「ナナさんらしいです」
「褒めてる?」
「かなり」
ナナさんは照れたように笑い、急に真面目な顔になった。
「森崎さんじゃなくて、美緒さん。ここだけの話じゃなくて、ちゃんと言うね。あなたが黙って消えなくてよかった」
私はくをげた。
「ありがとうございました」
「またお茶しよう。会社の愚痴は持ちさない努力をする。分失敗するけど」
「聞きます」
広報部のドアをる、私はしだけ振り返った。
悔しさも寂しさもあった。
あの所でしたも働いたも、無駄ではなかったといたかった。
瀬の旅代理では、週に数回だけ伝いを始めた。
最初は事務だけのつもりだったが、いつのにかで接客相談も受けるようになった。
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「母とで温泉にきたいんです。が悪い父でも丈夫な宿はありますか?」
「婚旅、派じゃなくていいんです」
は旅の相談をしながら、の別の話をする。
私は図を広げ、乗り換えを確認し、無理のない予定を組んだ。
以より、旅の程に余をく取るようになった。
急がなくてもいい旅を、誰かに勧めたかった。
ある夕方、瀬が古い刻表をめくりながら言った。
「美緒さんの予定、変わりましたね」
「どう変わった?」
「は、誰かに迷惑をかけないように詰めてた。今は、自分が息をするを入れてる」
私は笑った。
「旅代理っぽいこと言うね」
「本職なので」
のでは、商のスピーカーから夕方のチャイムが流れていた。
母が惣菜のビニール袋をぶらげてのを通り、私を見つけるときくを振った。
し恥ずかしくて、でも嬉しかった。
夫とは、に度だけ会って話すことになった。
夫婦を続けるためではない。
壊れたものをどう片付けるか、決めるためだった。
彼は次期社候補かられ、しばらく関連会社で現研修をしているという。
華やかなホテルの企画ではなく、方のビジネスホテルの運営補助。
プライドのい本にとっては屈辱かもしれない。
でもある、彼はぽつりと言った。
「フロントで謝るのって、難しいんだな」
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「今更」
「今更だな」
夫は自嘲気に笑った。
以のように、取り繕う計算された笑いではなかった。
私は彼を許したわけではない。
許すという言葉は、まだい。
もしかしたら使わないかもしれない。
それでも、彼が初めて自分のしたことを自分の言葉で持とうとしているのは分かった。
義母の貴子さんからは、季節の便りが度だけ届いた。
箱のにはいと、さな菓子の商品が入っていた。
『美緒さんへ。あのあなたにの顔を守れと言ったことを、今も完全には違いだったと言い切れない私がいます。ただ、その顔にあなたの痛みを塗り込めようとしたことは違いでした』
貴子さんらしいだった。
謝っているのに、全部は折れない。
私は返事をかなかった。
でも、商品券で母と菓子を買った。
菊の形ではなく、丸い栗きんとんを選んだ。
母は「こういうのは慮なくべるのが供養よ」との分からないことを言った。
「誰の供養?」
「見栄とか」
でお茶をみながら笑った。
がまった頃、私はで横浜へった。
あのと同じ所につと、の匂いが似ていた。
型客はまっていなかったが、は同じように鈍くっていた。
スーツケースは持っていない。
さなショルダーバッグだけだった。
ベンチに座り、自販売で買った甘いカフェオレをけた。
プルタブの音が、あのより軽く聞こえた。
スマートフォンの写真フォルダには、まだ港の写真が残っている。
消そうとったことは何度もある。
でも、まだ消していない。
消せないのではなく、消さないのだ。
あの、私は置きりにされた。
でもそこから、自分でチケットを取り直した。
その事実だけは、誰にも作り替えさせない。
を見ていると、瀬からメッセージが来た。
『来週のお客様、母娘で沢希望です。余めで組みますか?』
私はし考えて返信した。
『めで。帰りの便は選べるようにしてください』
送信してから、笑ってしまった。
職業病かもしれない。
にも、帰りの便は案くらいあった方がいい。
夕方のが面にく伸びていた。
港にはがき交い、誰かが発し、誰かが戻ってくる。
別れの所でもあり、始まりの所でもある。
私は空になった缶をゴミ箱に捨て、ゆっくりとちがった。
駅へ向かうで、背からキャスターの音が聞こえた。
旅客のスーツケースが、畳のを転がっていく音だった。
私は振り返らなかった。
今度は私が、自分のでを向いて歩いていた。