"奪われた十八年の通帳" 第27話
晦の夜空は、ひとつなく澄み渡り、くの京浜業帯のフレアスタックが、青い炎を静かに揺らしている。
私はマフラーを巻き直し、きく息を吸い込んだ。
肺のに流れ込んできたの気は、で吸ったどの空気よりも、甘く、たく、そしてどこまでも清らかだった。
ヶ。 の終わり。
真のえ込みが続く曜、私は浦半島の台にある、を見ろす霊園にいた。
綺麗に掃き清められた墓には、『真壁之墓』と力い文字が刻まれている。 私は向けた百にをかけ、線の煙にをわせた。
「お父さん」
御のたさに触れながら、私はさく呟いた。
「ただいま。……全部、終わらせてきたよ」
が吹き抜け、百のが優しく揺れた。 まるで、い苦役を終えた娘のを、父のきな掌が撫でてくれたような気がした。
先週、沢田弁護士から届いた報告には、あのの現の境遇が淡々と記されていた。
敏之は、会社の告訴により業務横領と詐欺の罪で起訴され、現は拘置所のにいる。 曲峠の事件についても再捜査がんでおり、交通事故の教唆および保険詐欺での追起訴は免れないという。 保釈のもなく、数千万円の賠償を背負った彼は、いずれ刑務所ので、自らが犯した罪のさに潰されることになる。
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静子は、あの継所のプレハブが更に戻された、くを失い、寄りのない困窮者として、自治体の活保護が適用される最も簡素な公施設へと移された。 相部で、プライバシーもなく、の流をにして、彼女は毎「私の息子は本社の課なんだ」と虚しい叫びを繰り返しているという。 だが、面会に訪れる者は、この世にもいない。
そして玲奈は、横領の返済のために親族からも見放され、夜のの最底辺のを転々とした、現は方を晦ましている。 かつて武器にしていた若さと美貌は、恐怖と疲労で見るもなく衰え、警察の捜査のから逃げ回る々を送っているそうだ。
彼らは皆、自分が者から奪い取ろうとした欲望のみによって、自滅していったのだ。 誰をむ筋いもない、あまりにも当然の、因果の清算だった。
午。 私は、しく借りたアパートの部に戻ってきた。
横須賀の静かな宅にある、築の造アパートの階。 向きの畳には、の柔らかな差しが、畳のにきな角いの溜まりを作っていた。
トタンの軋みも、型トラックの響きもない。 義母の罵声も、夫の暴力な音もない。
台所で湯を沸かすと、さなやかんが、ピィーと澄んだ笛の音を鳴らした。 私は磁の湯呑みにい緑茶を注ぎ、陽だまりのに置いたさな座卓のに腰をろした。
湯呑みを両で包み込む。 じんわりとした温もりが、あかぎれの消えかけた私の指先から、胸の奥へと染み渡っていく。
窓をけると、微かに潮のりを孕んだのが、私の頬を優しく撫でて通り抜けていった。 どこまでも青い空が、い平線の彼方まで広がっている。
私はお茶を、ゆっくりと啜った。
歳。 私の本当のが、今、静かに始まろうとしていた。