"十年介護と九千万円" 第8話
「相応の処置、とは何ですか?」
私はチェーン越しに、迫の目を真っ直ぐに見据えた。 切のを排した、底えのする線。 迫が瞬、たじろいだのを私は見逃さなかった。 、ただをげ、震えて謝るだけだった女が、微だにせず自分を睨み返している。
「……隣の苦を、これ以庇いきれなくなるということだ」 迫は絞りすように言うと、忌々しそうに靴を引いた。
「曜の昼だ。それまでに叔父とやらと話をつけろ。曜の昼に実印がないなら……こっちにも考えがあるからな」
迫は佐伯の背を突き、は荒々しい音を響かせて階段をりていった。
ドアを完全に閉め、鍵をに回す。 鉄のドアに額を押し当てると、たさがじんわりと皮膚に伝わってきた。 がない。 曜の昼——あと。 それまでに、この男の正体を暴き、奴らの喉元に突きつける絶対な武器をに入れなければ、私は公団から放りされるか、あるいは「事故」に見せかけて殺される。
部に戻ると、男はベッドからを乗りし、を鉄の杖で激しく打ち鳴らしていた。
ガツン! ガツン! ガツン!
属が畳の芯を叩く、鈍く暴力な音。 男の顔は潮し、目は血り、端から泡をばしながら、異様な形相で私を睨みつけていた。
「あー! うー! ばー!」
狂乱したような叫び声。
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普段なら「発作が起きた」と慌てて駆け寄る面だ。 だが今の私には、それが単なる威嚇であり、苛ちの爆発であることがに取るように分かった。 迫との会話を聞き、実印の回収が遅れることに焦り狂っているのだ。
男はベッドサイドに置いてあったプラスチックのホワイトボードを探りで掴むと、付属のペンを乱暴にらせた。
、男が疎通のために使ってきたボードだ。 普段は「みず」「といれ」「いたい」といった、震えるひらがなしかかない。
だが、今、男が殴りきした文字は違った。
『サッサト オオサコニ ワタセ』 『オマエヲ ステルゾ』
震えのない、鋭利な跡。 漢字こそカタカナに崩しているが、圧はを突き破らんばかりにく、線の端々には暴力な男のが剥きしになっていた。
私はホワイトボードを無言で見つめた。
「お兄ちゃん、落ち着いて。体に障るわ」
私が努めて事務な声でボードを取りげようとすると、男はを伸ばし、私の首を万力のような力で握り潰そうとしてきた。
ギリギリと骨が軋む。 麻痺しているはずの。 その握力は、屈な成男性そのものだった。
男の目が、濁りのない酷なを放ち、私を射抜いていた。 「逆らうな」と、その目が無言で脅迫している。
私は痛みに顔を歪めながらも、線を逸らさなかった。
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男の瞳の奥底にある、汚い犯罪者の魂を、網膜に焼き付けるように見据え返した。
数秒の沈黙の、男はふっと力を抜き、再び「うあー」とけない声をげてベッドに倒れ込んだ。 芝居に戻ったのだ。
私は赤く鬱血した自分の首をさすりながら、静かに部をた。
首の痛みなど、どうでもよかった。 あの男の正体を暴くための、決定ながかりがる。 あの釣り具箱の内部通報だけではりない。 あの類は「本物の健がんだ」ことを証しているに過ぎない。 「目のの男が何者なのか」を証する確たる証拠がなければ、警察に駆け込んでも、迫の息のかかった連に握り潰される。
正午過ぎ。 男が昼の流をべ終え、再びい眠りに落ちたのを確認した。
私は男の部の押し入れ、タンスの引きし、畳の隙を徹底に調べ始めた。 男がにつけているもの、男が触れるもの。 、私が盲目に「兄のもの」として信じ込んできた私物を、つつ疑いの目で再点検する。
だが、タンスのには兄の古い警察帳や分証のコピー、表彰状など、迫が偽装のために用したであろう「完璧な健の私物」しか入っていなかった。 狡猾な男だ。 自分の痕跡を残すようなヘマは、内にはしていない。
(どこだ? どこかに必ず、界と繋がる具があるはずだ)
昨夜、男は料亭にいた。 迫と密会し、若い女にを渡していた。 あの女——麻美と呼ばれていた女と、どうやって連絡を取りっている? 公団の固定話の通話履歴には、審な記録は切ない。