"十年介護と九千万円" 第14話
「お兄ちゃん、体、痛む?」
私が優しく声をかけると、男は力なく頷き、目を閉じた。 この醜悪な芝居。 だが、その芝居の裏で、男の神経が曜の「処刑」に向けて研ぎ澄まされているのを、私は肌でじ取っていた。
夜を待つ、私は男の目を盗んで捜索を続けた。 神保の言っていた「担保」。 タンスでも、釣具箱でもない所。
私は男が肌さずにつけている、キルティングの防寒ベストに目をつけた。 脳梗塞の遺症で「寒気が止まらない」という設定のため、男はこの物のベストを、寝るも決して脱ごうとしなかった。
午。男が夕を終え、再びい眠り(今回は私が本当に処方通りの眠薬をしめにませた)に落ちたのを確認した。
私は忍びでベッドにづき、男の分い胸元にを伸ばした。 のように眠る森田の首元から、ベストのファスナーをゆっくりと、ミリずつげていく。 男の饐えた体臭がをつく。
ベストの内側。 胸の裏に、素仕事で雑に縫い付けられた隠しポケットがあった。 黒い糸をハサミの先で慎に切る。
指を滑り込ませると、油に包まれたい類が引きされた。
灯のかりので広げたその類の表題を見て、私は全の血が逆流するのをじた。
【資系命保険相互会社 終保険証券】 契約:の。
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被保険者:枝。 保険受取:健。 保険額:千万円。
そして、特約条項の欄。 『急性疾患、過労認定、または慮の事故によるの、災害割増特約により保険を千万円加算(計千万円)』
千万円。
それが、私の命につけられた値段だった。 受取は「健」。 だが、その健の預座を管理しているのは迫だ。 私が麦茶の毒で全を起こしてねば、千万円の巨額の保険が、迫と森田の元へ転がり込む。 茨のなど、奴らにとってはただの「菜」に過ぎなかったのだ。
りで界が真っ赤に染まった。 その証券をスマホのカメラで何枚も撮し、元のポケットへ戻して糸で軽く留め直す。
そのだった。
ガチャリ。
静まり返った公団の玄関で、属が擦れう音が響いた。
私はね起き、証券を隠して部の隅へを寄せた。 計の針は午分。 こんなに訪れる者などいるはずがない。
だが、鍵穴に鍵が差し込まれ、ゆっくりと回る音がした。 チェーンを掛ける暇もなかった。
ドアが乱暴にけ放たれ、たい夜と共に、つのがでへと踏み込んできた。
「いやだ、何この臭い! カビと湿気で息が詰まりそう!」
甲い、障りな女の声が狭い公団に響き渡った。
そこにっていたのは、迫——そして、あの料亭で森田の首に抱きついていた若い女、麻美だった。
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麻美は毛皮のショートコートを羽織り、ピンヒールで板張りの廊をコツコツと踏み鳴らしながら、ずかずかと部の央まで入ってきた。 そのには、級ブランドのバッグが握られている。
「迫さん、本当にこんなゴミ溜めに健ちゃんを置いてたの? 信じられない。くこんなとこ引き払って、しいタワマンに移りましょうよ」
麻美は部を見回し、まるで端の汚物を見るような目を私に向けた。 そして、部の片隅に置かれていた、私のき父母のさな写真てを指先で弾いた。
パリン。
ガラスが割れ、父と母の笑顔の写真が、たい畳のに転がった。
「あっ、ごめんなさい。物だからすぐ壊れちゃうのね」 麻美は嘲笑いながら、その写真をハイヒールのかかとで無残に踏みにじった。
「……何をするの」
私の喉から、押し殺したような声がた。
迫が横から割り込み、私のに枚の類を叩きつけた。 緑の縁取りがされた、茨の実の『建物無償譲渡および相続分放棄同』だった。
「枝さん、待ちきれなくなってね」 迫の顔には、もはや警察OBの厳格さなど片も残っていなかった。 剥きしの欲と、残忍な笑みが醜く張り付いている。
「曜まで待つのはやめだ。今ここで、これに実印を押しなさい。麻美さんの子供のためにも、の午にはすべての類を揃えておきたいんでね」