"追い出された四畳半" 第1話
区、築の造公団。 吹き晒しの廊に、容赦のないたいが叩きつけていた。
乱暴に蹴りされた湿った段ボール箱が、洗仕げのコンクリートので鈍い音をてて裂ける。 擦り切れた作業着、頁の角が湿気で波打った冊の文庫本、そしてき母のさな裁ちばさみが入った錆びた缶が、黒ずんだたまりのへと転がりた。
あの異変に気づいたのは、のことだった——。
夕方半。物流倉庫のち仕事を終えた私のの裏には、潰れた肉刺がじくじくと鈍いを持っていた。 作業用の全靴を脱いだ瞬にちのぼる、ゴムと段ボールの埃が混ざったような饐えた匂い。 私、宇佐美茜が毎晩帰る所は、この当たりの悪い畳半と畳、そしてさな台所しかない昭の都営公団DKだった。
鉄製のい玄関扉をけると、いつものように甘ったるいバニラと柑橘のが、老朽化した建实质特の湿気たカビ臭を無理やりに覆い隠すように漂ってきた。 がり框には、のついた私のスニーカーの隣に、入れのき届いたいヒールのパンプスが、脱ぎ散らかされている。
「あ、茜? 遅い。ポスト見といてって言ったじゃん」
居のい板ドアの向こうから、甲い、しかしどこか甘えた声がんできた。
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の同級であり、この部のルームシェア相である桐原莉緒だ。 彼女は居の央、自分がネット通販で買わせた毛のいグレーのラグのに寝そべり、顔に級なシートマスクを貼り付けたままスマートフォンの画面を指先で弾いていた。
ローテーブルのには、べ残して油の固まった宅配ピザの箱と、が半分残った輸入ビールの瓶が放置されている。 ピザの箱の隅には、私に対する指示がりきされた付箋が貼り付けられていた。
『茜へ。シルクのキャミ、洗濯回さないで洗いしといて。洗剤はラベンダーのやつね。あと、コロコロかけといて』
私は作業着の入ったトートバッグを胸元に抱えたまま、喉の奥に溜まった乾いた唾をみ込んだ。 「……ピザ、片付けていいの?」 「んー、捨てといて。えたらいし。あ、それとさ」 莉緒はシートマスクの端を差し指で押さえながら、スマートフォンの画面から線をさずに、ごく当たりのことのように言った。
「来週から、拓真くんが何か泊まるから。茜、自分の荷物、廊にハミさないでね。あの、育ちがいいからさ、っぽいもの界に入るの嫌がるんだよね」
拓真——莉緒がヶほどから付きっているという、自称・資系コンサルタントの男だった。 私は何も言い返さず、ただ静かに頷いた。
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何かを反論すれば、彼女は決まって「茜のためにわざわざい部を探してシェアしてあげてるのに」と、嫌をあからさまに撒き散らすからだ。
この部の賃は、莉緒の主張によれば万円。 私たちはそれを折半し、私が毎万千円を現で莉緒に渡していた。 千円の物流倉庫の仕分けで、取り万らずの私の活にとって、万千円は文字通り血の滲むようなだった。 昼は賞期限の特売おにぎりつで済ませ、でも自分の畳半にはを入れず、擦り切れたフリースを枚ね着して耐え忍ぶ。 それでも、寄りのない私にとって、をしのげる根があるだけでありがたいと信じ込もうとしていた。
台所の流しにち、え切ったでを洗う。 赤くひび割れた指先が凍えるように痛んだ。 蛇をひねるたびに、壁の奥の配管がガタガタと鳴のような震をてる。 この部のあらゆる設備はとうの昔に寿命を迎えていた。
異変の最初の引きは、その翌朝、ベランダの洗濯置きで引かれた。
老朽化した公団特の、吹き晒しの狭いベランダ。 夜に言いつけられた莉緒のキャミソールを干そうとを踏み入れたとき、洗濯の排ホースの根元から、どろりとしたの汚が溢れしているのが目に入った。
排にのヘドロが詰まっているようだった。
私は膝をつき、ゴム袋をはめて、洗濯のの狭い隙にを差し入れた。