"追い出された四畳半" 第6話
「……荷物は、どうすればいいんですか」 私はを切殺し、ロボットのように呟いた。
「どうすればって、捨てるに決まってんでしょ!」 莉緒が切り声をげた。 「あんたのあの汚い段ボール、邪魔なのよ! 拓真くんの荷物が入らないじゃない! の朝までにていくって約束しなさいよ。今夜は夜勤なんでしょ? じゃあ、職からそのままどっかのネットカフェにでもけばいいじゃない!」
須藤がポケットから財布を取りし、千円札を枚、指先で弾いて畳のに落とした。
「ほら、これ。切れ代わりにやるよ。今夜の漫喫代くらいにはなるだろ。謝して受け取りな」
千円札が、私の元で惨めに折れ曲がった。 は、完全に自分が勝者であると信じ込んでいた。 寄りのない、無抵抗な派遣の女をに叩きし、この格の公団をに入れ、甘い汁を吸い尽くす。 その筋きに、ミリの狂いもないと確信しているのだ。
私は落ちた幣を拾わなかった。 ただ、静かに目を伏せ、言った。
「……分かりました。夜勤の準備をして、すぐにていきます」
「ハッ、最初からそうすりゃいのに」 莉緒がゲラゲラと笑った。 「あ、そうだ。押し入れの奥にあった母ちゃんの写真だか何だか入った箱、あれ、ゴミ袋に入れといたからね。あんたの気臭い私物、部に置いておかれたら運気ががるのよ」
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私の畳半の部の入りに、黒いゴミ袋がつ、無造作に放りされていた。 母の形見の桐箱が、乱暴に押し込まれ、角が突き破れて裂けているのが見えた。
胸の奥くで、何かが完全に焼き切れる音がした。
私はゴミ袋を静かに両で抱えげた。 「……ってきます」
「度と帰ってくんなよ、負け犬!」 背で、莉緒の甲い嘲笑と、須藤の笑がなって響いた。
へると、はさらにまっていた。 私は公団の階段をりず、廊の暗い非常階段の踊りへとを潜めた。 コンクリートの気が、作業着越しに背を刺す。
抱きしめたゴミ袋のから、母のさな桐箱を取りす。 蓋をけると、が染み込んだ母の写真が、ガラスの割れたさな額縁ので歪んでいた。
私は指先で、母の顔についたを丁寧に拭った。 涙は、議なほど滴もなかった。 ただ、体の芯が、燃え盛る氷のように静かに研ぎ澄まされていくのをじていた。
夜。 階の部のかりが消え、静まり返るのを、私は踊りののから見つめ続けていた。 寒さで唇が震え、の覚はとうに消えていた。 だが、私は歩もかなかった。
午。 の空が、苦しい鉛から、わずかにみ始めた。 はになり、が湿った気怠い朝の気配を帯び始める。
私は階段をがり、再び階の部のにった。
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昨夜、須藤が内側から掛けたはずの郵便ポストの隙から、細い針を差し入れ、内側のサムターンを慎に探る。 かつて母が鍵を忘れたときのために教えてくれた、古い公団のドアのわずかな隙。 カチャリ、とさな属音がして、鍵がれた。
音をてずに玄関の扉をける。
玄関には、昨夜莉緒が蹴りした私の荷物—— 破れた段ボール箱が、に晒されてぐしゃぐしゃに潰れたまま、放置されていた。 居からは、須藤のきないびきと、莉緒の寝息が聞こえてくる。
私は濡れた靴を脱ぎ、忍びで台所へとんだ。 流し台の横、昨夜須藤が放りしていたジュラルミンケースの横に、彼のスマートフォンと、数枚の契約が散乱していた。
私は自分のスマートフォンのカメラを起し、無音アプリでそれらの類を枚ずつ、確実に撮していった。 架空会社の登記簿。 複数の個名義がき連ねられた名簿。 そして、あの『名義承継申請』の控え。
そのだった。
「……おい」
背から、く掠れた声が響いた。
臓が喉からびそうになった。 振り向くと、トランクス枚の須藤が、血った目で台所の入りにち、私を睨みつけていた。 そのには、護用とわれる黒い特殊警棒が握られていた。
「てめえ……何でここにいる?」 須藤の殺気った線が、私が構えていたスマートフォンへと落ちた。
「……撮ったのか? あ?」
居の奥から、物音に気づいた莉緒が慌ててびしてきた。