"追い出された四畳半" 第15話
の朝、もう度あの女の目のに類を突きつけて、印鑑を押させる。俺の目ので、確実に押印させるんだよ」
須藤はちがり、居の壁をドンと殴りつけた。 い膏ボードが、メキリと音をてて窪む。
「断ったら、どうすんの……?」 莉緒が怯えた声で尋ねる。
須藤はウイスキーをみ、背筋が凍りつくような、く濁った笑い声を漏らした。
「断れるわけねえだろ。逃げなんかねえんだからよ。……あの女の母ちゃんの遺骨、どこにあるかってるか?」
私の臓が、ドクンと嫌な音をててねがった。
イヤホンのコードを握りしめる指先に、爪がくなるほど力がこもる。
「……らないわよ。実の墓じゃないの?」 莉緒が答える。
「違うね。あいつの母ちゃんは活保護受者だった。寄りもねえから、遺骨は預骨堂だ。区の、寺の角にある無縁仏の納骨堂だよ。所は調べがついた」 須藤の笑が、通気を通じて私のに突き刺さる。 「の朝、類にハンコ押さねえなら、その骨壺を叩き割って荒川に流してやるって言やあいい。あのの真面目腐った者はな、んだ親のいをチラつかせりゃ、いつくばって何でもくんだよ」
——そこまで。
この男は、そこまで計算して、私のすべてを調べげていたのだ。 貧しい者が、どれほど親の尊厳にしがみついてきているか。
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そのもっとも脆く、もっとも神聖な痛点に、たい鉄の杭を打ち込む算段を、平然とにしている。
暗の、私の全の血液が、沸騰した油のように煮えたぎり、次の瞬には絶対零度の氷へと凍りついていくのをじた。
涙など、最初から滴もなかった。 ただ、自の畳のに置かれたボールペンの軸が、私の握力でミシリと軋んだ。
ではない。 目のの壁を隔てた所にいるのは、の皮を被った、ただの汚の塊だ。 けをかける余など、厘もしない。 彼らがこれから落ちていく獄の蓋を、私自ので、ミリの狂いもなく溶接して塞いでやる。
午。 居からは、須藤の酔したいびきが聞こえ始めた。 莉緒は、シャワーを浴びるために浴へ入っていった。
ザーという古い湯器の轟音と、シャワーの湯がプラスチックのを叩く音が響く。 私は静かにちがり、畳半の襖をミリ単位でけた。
廊は真っ暗だった。 居の引き戸の隙から、テレビの砂嵐のような微かなが漏れている。 須藤はソファに倒れ込み、完全に識を失っていた。
私は音をてずに、洗面所のドアのへと移した。 湿った湯気とともに、っぽいシャンプーの匂いが漏れしている。 シャワーの音に紛れて、莉緒が誰かと声で囁きっている声が聞こえた。
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スマートフォンを浴のに持ち込んでいるのだ。
私は壁にを押し当てた。 たいタイルの触が、頬をやす。
「……うん、健さん? 起きてた? ……ううん、拓真くん、今酔い潰れて寝てる」 莉緒の声だった。 須藤に見せていた甘えた声とも、昼のヒステリックな喚き声とも違う。 もっと酷で、計算い、別の男に向けられた声。
「、朝イチで部の名義が取れたら、すぐに類送るから。拓真くんには内緒で、健さんの会社で買い取ってくれるんだよね? ……うん、百万でいい。拓真くんの借? そんなのるわけないじゃん。あのが勝にやったことだし。あいつが警察に捕まるに、私、付だけ持って阪にくから……健さんのマンション、置いてくれるよね?」
シャワーの音が、莉緒の乾いた笑い声を湿らせていく。
「丈夫だって。拓真くん、もうに血がって周りが見えてないから。、あの派遣の女を脅してハンコ押させたら、用済みだし。全部、拓真くんがやったことにして警察に垂れ込めば、私だけ逃げ切れるでしょ? ……うん、のお昼には幹線乗るね。好き」
カチャリ、と通話が切れた。
私は暗がりので、く唇を歪めた。
共犯者たちの、あまりにも浅ましく、美しいまでの内輪揉め。 男は女のみを握って利用し、女は男を盾にして裏切り、別の男へ乗り換えようとしている。
とも、自分だけは沼からいがれると信じ切っているのだ。