"追い出された四畳半" 第18話
「あ? 何だ、まだ何か文句あんのか?」
「いいえ」 私はの消え失せた瞳で、須藤を見据えた。 「鍵、けておきましたから」
「……は? 何言ってんだ、このアマ——」
その瞬。
午分。
カチャリ、と内側のドアガードがされた鉄の扉の向こうから、複数のい靴音が、階段を急速に駆けがってくる音が響いた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
然とした、躊躇のない、い軍靴のような音。 廊の古いコンクリートを震わせるその振は、やのものではなかった。
須藤のきが、ピタリと止まった。 ドアノブを握った彼のが、張る。
ピンポーン。
午ちょうど。 たく澄んだ子音が、静まり返った公団の廊に鳴り響いた。
インターホンのレンズの向こうから、く、威圧な男の声が、属のスピーカーを突き破るように轟いた。
「京都宅供公社指導監督課、および警庁千警察署刑事課捜査員です。須藤拓真、桐原莉緒。詐欺未遂および偽造印私文使の容疑で、令状がています。ドアをけなさい」
須藤の顔から、さっと血の気が引いた。 瞳孔が極限まで見かれ、呼吸が喉の奥でヒッと詰まる。
背の居から、莉緒の「え……?」という抜けな呟きが漏れた。
私は須藤の真横を静かに通り過ぎ、鉄のドアのハンドルにをかけた。 そして、絶望に凍りつく男の横顔を見つめながら、え切った声で告げた。
広告
「よ。約束通り、本物の続きを始めましょう」
私は、い扉を側へ向けて、気に押しいた。
鉄の扉が側へ向かってききった瞬、吹き込んできたのはたいだけではなかった。
靴底が吸い付くような湿り気を帯びた廊に、つのがなるようにっていた。
先につのは、昨の窓と同じ、シワの寄ったベージュのトレンチコートを着た指導監督課の矢代監察官。 そのすぐ背には、に濡れた濃紺のジャンパーを羽織り、革の帳を胸元に収めた千警察署刑事課の男が。 さらにそのろに、濡れた階段のすりにをかけた制の巡査が、無言で廊の退を塞ぐようにっていた。
「……あ」
須藤の喉から、空気の抜けるような掠れた音が漏れた。 にした物の革靴の踵が、コンクリートのタタキに落ちて乾いた音をてる。 彼の髪料で固められた髪から、脂汗が筋、こめかみを伝って顎へと滴り落ちていた。
「京都宅供公社指導監督課の矢代です」 矢代はの欠片もない声で告げると、粒のついたプラスチックのバインダーをいた。 「千警察署刑事課の司法警察員同伴のもと、都営千緑町公団号棟〇号に対する、正転貸および公文偽造容疑に基づく緊急ち入り検査を実施します」
広告
「ま、待ってください……!」 居の奥から、莉緒が両でトレンチコートの襟元を掻き抱きながらびしてきた。 その顔は、ファンデーションのから気の肌が透けて見えるほど青ざめていた。 「何の真似ですか!? ここは私のですよ! 今、ちょうどこの女と話しいが終わって、円満にていくところなんです!」
莉緒は震える指先で、居のローテーブルのを指差した。 そこには、先ほど私が印鑑を押したばかりの『居権切放棄申兼即退誓約』が置かれている。
須藤もまた、本能に息を吹き返したように、喉を鳴らして唾をみ込んだ。 彼は濡れたワイシャツの胸元をえ、警察官たちのにちはだかるようにを乗りした。
「刑事さん、あんたたち、完全に越権為だぞ」 須藤の声は、必に平静を装おうとして擦っていた。 「俺たちは正当な続きを踏んでるんだ。これを見ろよ。宇佐美茜本が、自分ので署名して実印を押した放棄届だ。これがある以、この部の権利関係は民事のが成してるんだよ。警察が令状もなく踏み込んできていい理配がどこにある!」
刑事課の配の男——首筋にい傷跡のある、の鋭い男が歩にた。 彼は内ポケットから、透なビニールケースに収められた枚のを取りした。
赤みがかった公印が押された、裁判所の令状だった。
「須藤拓真」